紛争の内容
アパートの一室と駐車場2区画を貸している賃貸人からのご相談でした。
賃借人は、何年も賃料支払いの遅れが常態化しており、ここ5ヵ月はまったく賃料の入金が無い状態であるばかりでなく、不特定多数の人物がアパートに出入りしている様子でした。
賃貸人は、可能な限り早く出て行ってほしいというご希望でした。

交渉・調停・訴訟などの経過
賃借人が賃料を滞納したとしても、直ちに明け渡しが出来るわけではないので、まず、滞納賃料全額を支払うよう請求し(「催告」と言います)、催告した期間内に支払が無い場合には賃貸借契約を解除する旨の連絡を手紙で行いました。

また、本件では、賃貸人や管理会社の話から不特定多数の人物が出入りしていることが明白でしたから、占有移転禁止の仮処分を申し立てました。
この、占有移転禁止の仮処分の説明をします。
裁判の判決は、ある人(例えば「A山B夫」)名義に命令が出されます。
ですから、ある建物「マンションα101号室」を明け渡せという命令も、A山B夫に出された場合、実際にマンションα101号室に居住しているのが甲野花子だった場合には、その判決は意味を持たないのです。
そこで、現在住んでいる人を特定したり、住んでいる人が他の人を入居させて建物の使用を移転(「占有の移転」)させることを防いだりすることを目的に、「占有移転禁止の仮処分」によって、占有者(建物の使用者)を特定するのです。
この特定があれば、判決までの間に別人が建物を使用したとしても、特定された人物宛の判決で強制執行ができます。

本件では、アパートの住所や賃借人の電話番号をインターネットで検索すると、風俗店のような名前が出てきましたので、風俗店員の待機所や寮のような使われ方をしていることも判明しました。
そして、占有移転禁止仮処分の結果、現地に行き、風俗店員の一人が日常的に居住していたので、入居者とその店員を相手に明け渡しを求めて提訴しました。

本事例の結末
賃借人と店員は、裁判の期日には出頭しなかったので、賃貸人の言い分通りの判決が出ました。
その後、賃借人と店員は明け渡す様子が無かったため、強制執行の申立てをし、催告まで行いました。
催告とは、裁判所職員である執行官が、任意の明け渡しを求めるため口頭で明け渡しを請求し、強制的に物を搬出する明渡し断行期日(催告から1カ月以内と決まっています。)を決める手続です。
当事務所としては明渡し断行まで考えておりましたが、明渡し断行期日の前に、賃借人と店員が任意でアパートと駐車場を明け渡してくれたため、断行をせずに解決しました。

本事例に学ぶこと
居住者が誰かわからないというケースは、じつは、それほど多くはありません。
ですが、居住者が誰か分からなかったり、他人に占有を移転してしまう可能性があるような場合には、占有移転禁止仮処分を行うことが必要です。