弁護士 時田 剛志

このページでは、埼玉県で30年以上、不動産事件を扱ってきた法律事務所の弁護士が、不動産賃貸管理に従事している大家(オーナー)や管理会社に向けて、よくある賃貸トラブル相談事例について解説し、有益な情報を提供しております。

はじめに

このページでは、埼玉県で30年以上、不動産事件を扱ってきた法律事務所の弁護士が、不動産賃貸管理に従事している大家(オーナー)や管理会社に向けて、よくある賃貸トラブル相談事例について解説し、有益な情報を提供しております。

不動産賃貸管理をする上で、トラブルは極力避けたいものです。しかし、特に集合住宅では、多数の住人が集まって居住するという性質上、トラブルは付き物といっても過言ではありません。そのため、トラブルを過度に恐れるのではなく、あらかじめよくある賃貸トラブル相談事例を知っていただくことで、いざという時に慌てずに対処できるようにしておきましょう。

【事例1】家賃の滞納というトラブル事例

不動産管理会社やオーナー(大家)さんからの相談の中で、最も多いといっても過言ではないのが、
「家賃を支払わない入居者がいる」
「家賃を何度も滞納する入居者がいる」
「家賃トラブルがある人を追い出したいがどうすればよいか」
といった家賃の滞納というトラブルです。

つまり、オーナーにとっては、入居者の家賃滞納という問題(トラブル)が頭の痛い問題ということになります。
そして、その態様は様々で、自動引き落としの設定をしているのに、家賃が口座に入っておらず引き落しがかからない事例、振込期限を逃して支払ってくる事例、振込期限に所定の家賃より低い金額のみ支払ってくる事例などです。
このように、家賃滞納に関する入居者の対応に問題がある場合には、強制退去、つまり建物明渡請求を視野に入れる必要があるでしょう。

ては、一度でも入居者が家賃を滞納した場合に、直ちに賃貸借契約を解除して、退去を求めることができるでしょうか。
実は、そう簡単なことではないということを覚悟しておいていただく必要があります。
つまり、オーナーと入居者との間の賃貸借契約は、継続的な取引を前提とする契約であり、たった一度の債務不履行(賃料未払)だけでは、信頼関係が破壊されたとはいえず、解除は認められない可能性が高いのです。
そのため、弊所では、以下のことをお伝えしております。

Q 1ヶ月の家賃滞納でも裁判を起こせますか?

A 一般的には、最低でも3ヶ月以上の家賃滞納があることが必要です。
賃貸借契約を解除するためには、賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたことが必要ですが、家賃が1ヶ月滞っただけでは未だ信頼関係は破壊されたといえないのが通常です。
従って、1ヶ月の家賃滞納の状態ですぐに裁判を起こすことはできません。
その後の滞納が3ヶ月程度に達すれば信頼関係破壊を理由に契約を解除し、明け渡しを求める裁判を起こすことができるようになりますので、その時に備えて早めにご相談にお越しいただくことをお勧めします。

でも、私は不動産管理会社に管理を任せているのだから、管理会社に任せておけばよいですよね?
という疑問がオーナー様から寄せられることがあります。
結論から申しますと、マスターリース契約でも締結していない限り、たとえ、不動産管理会社に家賃の回収を委託している場合でも、家賃滞納が発生し、入居者との間でトラブルになったときには、入居者との家賃支払いのための交渉、賃貸借契約の解除の意思表示、明渡訴訟、強制執行などの法的措置を賃貸人であるオーナー様自らが行う必要があります。

そのため、いざという時にオーナー様自身が依頼をすることができる弁護士を知っておくことが大切でしょう。家賃滞納は、時間がかかればかかる程、損失が生じる性質があります。

また、賃料保証会社を利用しておくと、いざ入居者が家賃を支払わなくなったとき、家賃を回収することができるのでメリットがあります。

【事例2】入居者同士の騒音、振動等の近隣トラブル事例

次に、よくあるトラブル事例としては、入居者間のトラブルがあります。
トラブルになる原因は様々ですが、
「上の階の子どもの足音がうるさくて眠れない」
「隣の部屋から音楽の音が聞こえてうるさい」
「ペットが吠えていてやかましい」
などがあります。
常識の範囲内かどうかという問題がありますが、昼の仕事の人もいれば夜の仕事の人もいます。テレワーク中心の人もいれば子育て中の家庭もあります。ペット可マンションであればペットによっては吠える声も聞こえるでしょう。音はあまり気にしない人もいれば敏感な人もいます。つまり、マンションなどの不動産賃貸では、一か所に入居者が密集して生活している以上、入居者同士のトラブルは少なくありません。

この時、入居者同士が解決できればよいですが、最近は、特に賃貸マンション等では、隣に誰が住んでいるのかもわからず、直接の話し合いによる解決が簡単にできるとは限らない事情もあります。
そこで、不動産管理会社やオーナー様は、両者の間にたって、解決に導くことが期待されます。しかし、オーナー様は、入居者の双方と賃貸借契約を締結している関係上、一方だけを悪者扱いすることもできません。中には、被害を訴えている方の特性(いわゆる精神疾患により幻聴に悩まされているというケースも実際にあります。)もあり、加害とされる家庭には落ち度がなかったというケースもあります。

オーナーや不動産管理会社としては、粘り強く、お互いが納得できる解決を目指すのが理想ですが、法的には、受忍限度を超えるかどうかがポイントとなります。つまり、受忍限度を超えた騒音や振動があれば、それは民事上の賠償義務が発生する事案になりますから、ある程度厳しい対応を取らざるを得ません。しかし、そうでない場合には、地道に、お願いベースで妥協を図ることくらいしかできません。最終的には、入居者同士で法的措置を講ずるなどして解決してもらわなければなりませんが、賃料を得てビジネスをしている以上、不動産管理会社やオーナー様に対する期待は高いといえるでしょう。

【事例3】利用規約違反の入居者トラブル事例

中には、利用規約違反の入居者がいるという通報があり、トラブルになるケースもあります。
賃貸借契約を締結する際、細かい利用規約を設定するケースが多いと思います。例えば、
「共用部分に私物を放置しない」
「ペットの飼育禁止」
「小型犬のみ飼育可能」
など、マンションにより様々な利用規約が設定されています。

ここで、もし、共用部分に私物を放置している(例:タイヤを玄関前に積んである)とか、小型犬のみ飼育を認めているのに大型犬を飼っている形跡があったりとかすれば、利用規約に違反していることになります。

また、中には、賃借人が入居を目的とせず、ビジネスの拠点(ひどいケースでは、無店舗型風俗店の待機室に利用されていたり、外国人が数人入居していたり、いわゆる特殊詐欺グループの掛け子の仕事場(ハコ)として利用されていたりするケースもあります)とされているなど悪質な場合もあるでしょう。

このように、賃貸借契約書の一部である利用規約に違反されている場合には、立派な契約違反ということになります。
この場合にも、違反が一つあるから、直ちに解除だ、といいたくなるところですが、違反の内容、程度によって、信頼関係が破壊されたといえるかは異なりますので、ここでも弁護士による法的アドバイスを踏まえて行動した方がよいといえます。

【事例4】不動産管理とオーナーとのトラブル事例

このようなケースはあまり多くありませんが、中には、不動産管理会社が債務不履行し、例えば、管理業務をまともに実施しておらず、大家さんとの間でトラブルになるケースも考えられます。よほど悪質な不動産管理会社といえますが、管理業務を履行せず、または不完全に履行していたというケースです。大家さんは、管理会社にお金を払い、その分、管理会社は、賃貸業務が円滑に回るよう実働する役割があります。その管理会社が杜撰な管理をしていたのでは、入居者トラブルを招いたり、本末転倒ということになります。

このようなケースでは、思い切って管理会社を見直す必要もあるでしょう。大家さんとしては、管理会社に任せきりというだけではなく、管理がきちんとなされているか地道なチェックをすることなども大切です。

トラブル事例を防ぐためにはどうすればよいか

最後に、このようなトラブル事例を防ぐためにはどうすればよいかを考えます。

1 賃貸借契約の内容を様々なトラブルに対処できるように吟味する

どのようなトラブルも、契約に基づいて対処する必要があります。しかし、契約内容がとても抽象的であるとか、内容が不十分である場合が少なくありません。基本的には、契約自由の原則から、公序良俗に反しない限度で、あらかじめ定めておくことでトラブルの未然防止に役立つことは少なくありません。
例えば、敷金返還トラブルなどもありますが、あらかじめ明確に負担の範囲を取り決めておき十分に合意しておくことでトラブルを極力回避できることもあります。
弁護士によく相談し、賃貸借契約の内容を練っておくことが重要です。

2 家賃保証会社との契約を締結しておく

家賃滞納トラブルが発生すると、回収することは容易ではなく、出て行ってもらうことでやっと、ということもあります。しかしこれではオーナーは大赤字です。そのため、家賃保証会社と入居者との間で保証契約を締結させておくことなどで、いざ家賃滞納トラブルが生じた場合に、オーナーが家賃を取り損ねることがないようにしておくことも重要です。

3 実績のある不動産管理会社に管理を委託しておく

実績のある不動産管理会社に管理を委託しておくことにより、入居者とのトラブルを最小限に抑えることが可能となり、結果的に、トラブルリスクを下げることになります。管理委託費をケチるあまり、管理が不十分となって、トラブルがトラブルを呼ぶのは本末転倒です。
そのため、実績のある不動産管理会社に管理を委託しておくことがトラブルの未然防止において重要でしょう。
なお、規模の小さいアパート管理などでは、大家さんと入居者とで顔を合わせる管理をすることが可能な場合もあります。そのような場合には、トラブルになりにくく、トラブルが大きくなる前に人間的に解決できる場合もあるでしょう。しかし、規模が大きくなればなるほど、そのような関係性を基に解決を図るのは難しくなります。

以上、賃貸管理におけるトラブルを完璧に防ぐことは難しいと思いますが、オーナー(大家)様の努力次第では、トラブルのリスクを最小限に軽減することができます。トラブルは一度起きてしまうと、非常に手間とお金がかかる場合がありますので、いかに事前に予防をしておくかがキーポイントです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
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