紛争の内容
市内で賃貸業を営んでいた主婦のAさんは、経営していたアパートの一つで、賃借人の方とトラブルになってしまいました。そのトラブルというのは、貸室の一室の水道が壊れてしまい、一部使えなくなってしまった、というものでした。水道の修理工事期間中、賃借人の方には同アパートの別室をお貸しすることにし、引っ越し費用や水道破損により支障が出た期間についてはそのために賃借人にかかった費用を別途負担しましたが、その修繕工事が複数回にわたったため、賃借人とAさんとの間では、本件賃貸借契約について損害賠償や賃貸借契約の条件について見直しがされることになりました。賃貸人の方は、水道の破損に伴い、様々な損害の賠償を請求されましたが、中には評価が過大と思われたり、賃貸人の負担とすべきか不明なものが含まれていたので、Aさんと賃借人との間で紛争となってしまったのでした。
賃借人の方と自分で交渉してきたAさんでしたが、次第に賃借人の方の言動から、そもそもこの賃貸借契約を維持するのは難しいと考えるようになりましたが、具体的にどのようにしたら不安があったため、弊所にご相談にいらっしゃいました。

交渉・調停・訴訟などの経過
当職がAさんの代理にとして就任してからも、賃借人の方の請求は変わらず、またAさんの賃借人の方と契約を維持する意思は完全に失われておりましたので、依頼を受けた当職は、Aさんの代理人として契約の合意解約の提案も致しましたが、応じてもらえませんでした。そこで、やむなく賃借人の方にあるべき範囲で損害賠償をして示談する、という方向で埼玉弁護士会の示談あっせんを申し立てることとしました。弁護士会における示談あっせんは、裁判所での手続ではありませんので、裁判官の関与はありませんが、裁判例などに通じた第三者となる示談あっせん委員(弁護士)が介入し、合意形成のために間に入ってくださいます。また、土曜午前の実施も可能で、裁判所での調停や訴訟よりも頻繁に期日を開けるというメリットもあります。裁判官などに一刀両断で判断されるわけではありませんので、解決策としてソフトランディングを目指すことも可能です。

本事例の結末
賃借人の方は、最後まで損害賠償について譲ることはありませんでしたが、示談あっせん委員の方から、「これ以上この賃貸借契約を問題なく維持していくことはお互い難しいであろう」との中立的な意見を出してくださった結果、本件賃貸借契約を合意解約することとなりました。賃貸借契約を終了させることにより、賃借人には引っ越し費用等のお支払いをすることとなりましたが、訴訟となれば賃貸人からの一方的な解除の主張は認められない可能性が高かったため、示談あっせんによる合意解約はAさんにとっては問題の根本的な解決となりました。

本事例に学ぶこと
交通事故などの不法行為と異なり、紛争の当事者間が信頼関係などを維持しなければいけない間柄である場合、訴訟や調停といった裁判所での手続は、当事者双方の対立イメージを増長し、望ましくないこともありえます。そこで、このような特殊な関係を前提として紛争を解決する場合には、示談あっせんという選択肢も検討すべきと感じました。