紛争の内容
単身の入居者が、賃借物件内でお亡くなりになりました。
ご病気での死亡とのことで、自死などではない事案です。
実母の方が連絡先となっており、連絡を取ると実母の方は、賃借物件からの入居者の私物は全部引き上げてくれました。
貸室退去後、賃貸人は、賃借人入居者の賃借物件の貸室退去明渡までの未払い賃料、原状回復費用などのお支払いを求めると、「相続放棄をするから」とのことでした。
相続放棄の期間を経過したであろう3カ月経過したころには、賃貸人債権者からの連絡にも応答してくれず、賃貸人債権者は、今後の債権回収を依頼されました。
交渉・調停・訴訟などの経過
入居者死亡の事案ですので、相続人調査から入ります。
賃貸借契約は初回のものでしたので、本賃貸物件所在地への住民票が移動されているか不明でした。
本物件所在地の市町村役場に、住民票(除票)を、弁護士の職務上の請求書を用いて、交付請求しました。
本ご依頼の事件処理に必要不可欠であることの理由、つまり、相続人調査の必要があるとして、本籍地の記載も求めました。
しかし、入居者は、本物件所在地に住民票を移動しておらず、「該当なし」との回答がありました。
そこで、入居申込書、賃貸借契約書記載の住所の市町村役場に、本籍地表示付きの除票の交付申請をしたところ、同市町村役場から、本籍地付き除票が交付されました。
本籍地の記載のある市町村役場に宛てて、戸籍関係書類の交付を、やはり、弁護士の職務上請求書を用いて、行いました。
筆頭者が実母の方の戸籍謄本が交付されました。
入居者の両親は離婚しており、実母の離婚前の本籍地(九州地方でした)から、入居者の実父の方の戸籍関係書類と、住民票の異動の情報が出ている戸籍の附票を交付申請しました。
実母の方も、記載された連絡先住所から転居している可能性がありましたので、念のため、実母の方の戸籍の附票を取り寄せました。
両親の戸籍関係から、入居者には配偶者はおらず、第一順位の子もないことが判明しました。
また、入居者の実両親の戸籍関係調査の結果、離婚後であっても、実両親は同じ住所に住民票をおいていることが判明しました。
そこで、同居している、つまり、同じ住所宛に、実両親の方それぞれ宛に、被相続人である子(入居者)の未払い債務の半額ずつの支払いを求める請求書を内容証明郵便、特定記録郵便で発しました。
念のため、既に管轄の家庭裁判所において、相続放棄申述受理の手続きを取られている場合には、家庭裁判所から発せられる、相続放棄申述受理通知書の写しか、相続放棄の受理証明書の写しを交付されたいとして、特定記録郵便の封筒には、返信用封筒を同封しました。
支払いを求める請求書を受け取った実父の方より、電話があり、支払い催告の期限内には支払えないが、月内には支払うとの電話がありました。
入居者の両親は、相続放棄をしていないようでありました(もちろん、仮に、訴訟提起をする前には、家庭裁判所に相続放棄の申述受理の有無の照会をかけます)ので、申し出の期限まで待つことにしました。
本事例の結末
期限までに全額のお支払いがなされました。
依頼者の債権は満額回収できました。
本事例に学ぶこと
債務者の承継人である相続人の調査、相続人が応答してくれない場合には、債権回収のために、訴訟手続きを取らなくならなければならないことがあります。
そのためには、死亡した債務者の住所情報からの相続人調査、相続人が判明した場合、相続人が相続放棄をしていないかどうか、放棄していた場合に、第三順位の相続人まで調査し、回収をするかどうかを検討することになります。
賃貸人債権者は、相続関係を調査するために、除票、戸籍関係書類の交付を求める正当の理由がありますが、やはり、ご自身で行うのは煩瑣でしょう。
これらは、弁護士にとっては、粛々と手続きをとることが可能でありますので、ご相談ください。
弁護士 榎本 誉
弁護士 遠藤吏恭