紛争の内容
賃貸人企業から、複数の共同住宅を一括借上げしているサブリース会社が、サブリース契約の合意解約の提案を受けました。
賃貸人企業に、コンサルタントが入り、サブリース契約の解消後の、各入居者との賃貸借(転貸借)についての引継ぎに際し、種々のトラブルとなり、また、賃貸人企業側の要望が、不動産賃貸業・不動産管理会社であれば、上記ともされる事項の問合せや、個々の契約書式についての疑義などなど些末にわたり、サブリース会社において、その対応に苦慮されておりました。
その要望も、管轄営業所ではなく、本社代表取締役宛に発せられるため、その書類の転送にも時間がかかり、それにも不満を持つなど、円満迅速な転貸借関係の引継ぎにも支障をきたしておりました。
そこで、今後の対応について、相談、依頼を受けたものです。

交渉・調停・訴訟などの経過
(1)示談交渉の申入れ
代理人に就任した旨をご連絡し、実務者レベルでの協議を求める通知を差し上げました。
しかし、同企業からは、代理人宛に返答はなく、依頼者企業の本社代表取締役社長宛に連絡文を送付し続け、話し合いのテーブルについてもらえませんでした。

(2)民事調停の申立て、調停取下げ
協議のテーブルについてもらうことと、そのスケジュールをと問えるために、民事調停の利用を考えました。
管轄簡易裁判所に申立てを行いましたが、相手方企業は、簡易裁判所に、答弁書を提出するも、その答弁の内容は、サブリース契約の合意解約と、それによる、転貸借関係の承継のないようには入らず、また、出頭もしていただけませんでした。
続行の調停期日も指定されましたが、やはり、相手方企業は不出頭でした。
調停委員会からは、調停という話し合いによる解決を目指すには適切な事案であるが、賃貸人企業が出頭しない以上、話し合いが持てないので、取下げを勧告されました。
それに従い、調停を取り下げました。

(3)被告企業の出頭に期待し、民事訴訟の申立て
依頼者であるサブリース会社は、転貸借の承継もあるため、話し合いでのサブリース契約の解消とそれに次ぐ、引継ぎの話し合いを求めていましたが、結局、民事調停を申し立てても、出頭していただけませんでした。
そこで、サブリース契約に定められた約定解除権を行使し、本件サブリース契約を終了させ、その終了とともに、賃貸人企業が、サブリース会社が個々の入居者と交わした転貸借の転貸人の地位を引き継ぐとする契約条項によることにしました。
約定解除権を行使の意思表示が到達した時より、6か月経過後に、サブリース契約は終了とする規定でしたので、訴状に、その約定解除権行使の意思表示を記載し、訴状副本などの送達により、相手方企業に解除の意思表示が到達し、それから6カ月経過後に、各サブリース契約が終了するので、それを判決で確認するという請求をたてました。

(4)被告企業の不出頭
訴状副本の送達は円滑に進み、第1回期日を迎えましたが、被告企業からは、答弁書も出ず、また、被告代表者ないし被告の訴訟代理を受けた弁護士も、第1回期日に出頭しませんでした。
当方としましては、被告企業がまさか、欠席判決を受け入れる選択をするとは想定しておりませんでした。
また、担当裁判官からは、本件請求が、訴状に記載された約定解除権の意思表示が到達してから6か月後に各サブリース契約が終了するという請求は、将来の法律関係の確認を求める訴えであるので、訴えの利益が問題となるから、その点を追加主張されたいと釈明されました。
そこで、続行期日を指定を受け、改めて、被告企業の対応に期待しました。
しかし、期日の通知書は受け取り、また、当方提出の準備書面を受け取りながら、やはり、裁判所には何の連絡もされず、また、言い分をまとめた準備書面も提出されませんでした。
担当裁判官を協議の上、将来確認の判決によらず、訴状送達の翌日から6カ月経過した、具体的日時に、サブリース契約関係が終了した旨を確認する判決とすることになりました。
そこで、送達後6カ月経過した期日を指定し、同日に審理終結、同日で判決の言渡しをする今年、被告企業にも、その内容で期日の通知を送ることになりました。
被告企業に代理人弁護士が就任し、期日変更申請がなされ、協議の機会を持てる可能性にもかけました。
しかし、被告企業からは何の応答もなく、各サブリース契約が終了した旨を確認する欠席判決がなされました。

(5)サブリース契約の終了を受けて、各入居者転借人への案内と賃貸人オーナー企業への対応協議
欠席判決がなされ、被告企業への送達後、不服申し立ての有無を確認しましたが、控訴はされず、本件判決は確定しました。裁判所に確定証明書を申請し、今後の賃貸人企業や入居者転借人への対応を検討しました。
サブリース契約の合意解約、管理業務の委託関係の終了に伴い、入居者転借人への案内の時期、連絡内容を詰めました。
また、賃貸人企業に対しては、サブリース契約の終了による、転借関係の転貸人(賃貸人)の地位の承継がある旨の連絡と、後継管理業者が選定済みである場合には、その引継ぎ対応可能である旨などの連絡を申し添えること、前家賃であることから、引継ぎ家賃等と管理人の精算業務のため、お時間を要すること等連絡事項を調整していました。

(6)賃貸人企業に代理人就任連絡
そのような準備を整えていたところ、相手方企業に代理人弁護士が就任しました。
上記の引継ぎ内容を連絡し、その後の物件管理の承継についても、代理人弁護士を通じてやり取りをすることとなりました。
これにより、メリハリのついたやり取りができるようになりました。
電気自由化の影響による、電気会社契約書く案内や、共用部へ電気会社との新契約案内や、各物件に設置したインターネット設備機器の撤去作業の案内立会い要請などやり取りをしました。
判決が出て6か月後に、最後のインターネット機器の撤去作業の完了報告をしたのちは、双方から特に協力要望がなく、サブリース契約・管理委託契約の終了による各物件の転貸借関係引き継ぎ、管理内容引継ぎは終了したと評価できました。

本事例の結末
賃貸人企業が欠席判決を受けた後に、代理人弁護士が就任したことにより、同契約の終了後の引継ぎがある程度円滑にでき、サブリース契約の解消がかないました。

本事例に学ぶこと
本件サブリース契約書に定める賃貸人オーナーとサブリース会社のサブリース契約に定めた約定解除権の行使は、その解除の意思表示の通知一本でかなうものですが、現実には、サブリース契約の終了に伴う、同契約に付随する物件の管理業務受託関係の解消とそれの引継ぎ要請、サブリース契約の終了に伴う転貸借関係の賃貸人への承継と、その案内業務という、賃貸借物件現場での現業業があります。
円満なサブリース関係の解消であれば、後継の管理業者への引継ぎも専門業者同士であることから阿吽の呼吸で対応可能です。
しかし、今回、賃貸人企業のコンサルタントの関与は、現場引継ぎの円滑性を配慮したものではないという印象でした。
そこで、代理人就任後の示談交渉提案、民事調停の申し立て、民事訴訟の提起、判決によるという、いわばフルコースの手続を履践したことによって、はじめて、相手方企業に代理人弁護士が就任し、ソフトランディングがかないました。
サブリース契約の解消のために、民事調停を利用したことがあり、その際には、賃貸人オーナー様には、期日に出頭いただけたことで、調停で協議をすることができました。
サブリース契約の終了を確認するために、約定解除権を行使し、それによる狩猟の確認の訴訟まで行くのは初めての経験でした。
しかし、本件のように、じっくりと対応することにより、所期の結果を得ることが可能となる場合がありますので、ぜひともご相談ください。

弁護士 榎本 誉