紛争の内容
A社は自動車販売業を営む会社。国道沿いに新店舗を建設するにあたり、近隣の住民を集めた説明会を行ったところ、一部の住民から、「日照権の侵害だ」、「眺望が悪くなる」、「かなり圧迫感があるので、精神的な損害も発生する」等を理由に建設反対の動きが出た。
A社は何度も住民との対話を重ね、法令には何ら違反していないこと、少しでも圧迫感を減らすため国道側に最大限建物を寄せる計画であること等を説明したものの、話し合いは平行線を辿った。
しばらくすると、住民代表者らが申立人となって、A社の建築計画の一部を変更するよう求める調停が起こされた。

交渉・調停・訴訟などの経過
A社の代理人として依頼を受け、弁護士が調停に出頭。
A社の建築計画には、日影規制を含めいかなる点でも法令違反がないことを主張するとともに、住民らが求める変更を行うには多額の費用が発生するため、住民らの請求には応じられない旨を説明した。
調停委員(2名のうち1名は建築士)はこちらの主張に理解を示してくれたものの、A社としては、「地域住民と喧嘩をしたままでは、その後の営業にも差しさわりが出かねない」という観点から、何らかの形で合意をしておくことが望ましいと判断。
裁判所の示した折衷案をもとにできる限りの妥協をして、新設する工場の壁の一部を削ることで住民らの理解を得た。

本事例の結末
新設する工場の壁の一部を削るという案で、調停が成立した。

本事例に学ぶこと
本件のように会社と地域住民との間で対立が生じているケースでは、何らの法令違反がないからといって会社側が拒絶(ゼロ回答)の態度を貫いてしまうと、今後の営業にとって事実上の弊害が生じることも予想される。そのため、落としどころを探って合意しておく方が、長期的には会社にとってプラスになることもある。

弁護士 田中智美