不動産の売買は、売主にとっても買主にとっても大きな契約です。その不動産売買契約を締結した後で、何らかの事情により売り買いをやめたくなった時、契約を解約できるのでしょうか。本稿では解約の方法とそれぞれの注意点を弁護士が解説します。

不動産売買契約をした後でも契約の解約は可能

売買契約は、売主の「●●をいくらで売ります」という意思と、買主の「●●をいくらで買います」という意思の合致によって成立しますが、一度成立したら絶対にやめることができないというわけではなく、一定の条件のもとで解約(解除)することが可能です。

これは、売買の対象が金額的にも大きな「不動産」であっても、同様です。

ところで、契約の「解約」と言ったり、「解除」と言ったりしますが、どちらが正しい用語なのでしょうか。

厳密に言うと、この2つは法的な効果が異なるのですが、不動産売買契約の場面では、あまり厳密に区別する必要はなく、どちらも「契約関係を解消すること」と捉えてもらって結構です。

不動産売買契約をした後に契約を解約する方法

不動産売買契約をした後に、その不動産売買契約を解約(解除)するための方法には、主に次のようなものがあります。

①債務不履行を理由とする解除

②契約不適合を理由とする解除

③手付金による解除

④ローン特約による解除

⑤消費者契約法に基づく解除(取り消し)

⑥売主と買主の合意による解除

以下、それぞれの解約(解除)方法と注意点につき見ていきましょう。

①債務不履行を理由とする解除

これは、相手方が不動産売買契約で定めた義務を履行しなかった場合に、もう一方の当事者から不動産売買契約を解除できる、という方法です。

債務不履行(=不動産売買契約で定めた義務を履行しない)には、「履行遅滞」、「不完全履行」、「履行不能」の3つのパターンがあります。

「履行遅滞」

相手方が、契約で決めた期限までに、契約で定めた義務を果たさないことです。

例えば、「買主が売買代金を期限までに支払わない場合」や、「売主が期限までに物件を引き渡さない場合」がこれに当たります。

なお、契約で定めた期限を過ぎてしまったからといって即座に解除できるわけではなく、契約を解除するためには、原則として、相手方に対する催告(=一定期間内に義務を果たすよう猶予を与える)が必要です。

「不完全履行」

相手方が、契約で定めた期限までに契約で定めた義務を果たしたものの、その果たされた中身が不完全(不十分)であることです。

例えば、「『売主が建物をリフォームしたうえで買主に引き渡す』という特約があるのに、売主が買主にリフォームをしていない建物を引き渡した場合」がこれに当たります。

なお、果たされた義務の中身が不完全(不十分)だからといって即座に解除できるわけではなく、契約を解除するためには、こちらも原則として、相手方に対する催告(=一定期間内に義務を果たすよう猶予を与える)が必要です。

「履行不能」

相手方が、契約で定めた義務を果たすことができなくなってしまうことです。

例えば、「不動産売買契約の対象となっていた中古住宅が、買主への引き渡し前に火事で全焼してしまった場合」がこれに当たります。

②契約不適合を理由とする解除

これは、売主が買主に引き渡した不動産の種類・品質・数量が契約内容と合致しない場合に、買主から不動産売買契約を解除できる、という方法です。

例えば、「建物を建築することを目的として土地を購入したのに、地中に大量の埋設物があることが発覚して、建物を建てることができない場合」や、「マンションを2部屋購入したのに、売主が1部屋しか引き渡さない場合」がこれに当たります。

上記の例を見てお分かりのように、契約不適合を理由とする解除は、債務不履行を理由とする解除のうち「不完全履行」の一種だと言えます。

③手付金による解除

事前に授受した手付金を用いた解除の方法で、売主が解除したい場合は受領した手付金の2倍の金額を買主に支払い、買主が解除したい場合はすでに支払った手付金を放棄する、という方法です。

俗に、「手付損、倍返し」(「手付損」は買主側、「倍返し」は売主側)とも呼ばれます。

不動産売買契約をした後で契約を解除する方法として、最もポピュラーなのがこの手付金による解除です。

ただし、手付金による解除が可能なのは、相手方が契約内容の「履行に着手」する前までです。

「履行に着手」するとは、平たく言うと、当事者が契約内容を実現するために動き出している状態のことです。

例えば、

■買主が残代金の支払いのための現金を用意したうえで、売主に対して所有権移転登記手続に必要な書類を交付していた

■買主が対象となっている土地について転売契約を締結し、転売のために土地の整備作業に着手していた

■売主が抵当権を抹消したうえで、売買代金の受領と同時に所有権移転登記手続を行うと定められていた場合で、売主が買主の指定した司法書士に抵当権抹消に必要な書類を交付していた

といった場合は、いずれも相手方が「履行に着手」したものと言えますので、手付金のよる解除はできません。

④ローン特約による解除

これは、不動産売買契約によく見られるローン特約を利用した解除の方法で、買主が、契約で定めた期間内に住宅ローンの審査が通らなかった場合に、違約金の支払いや手付金の放棄などのペナルティを受けることなく契約を解除できる、というものです。

不動産の売買は大きな金額になりますので、大抵の買主は住宅ローンを組みます。

その住宅ローンの審査に通らず、ローンが組めなかった場合にまで売買契約を維持しなければならないのは、買主にとってあまりに酷(売買資金が用意できない!)です。

買主がそのような酷な状況に置かれることのないよう、特約で契約から離脱できる機会を確保しているのです。

⑤消費者契約法に基づく解除(取り消し)

これは、消費者である一般の個人を保護する目的で制定された消費者契約法の条項を利用して契約を解除する方法です。

売主である不動産業者が、消費者である買主に対し、重要な事項について事実と異なることを告げたり、不利益な事実を告げなかったりして、買主を誤認させたまま売買契約を結んだ場合、例えば、「そのような事実はないのに、不動産業者が、『1年以内に近隣に駅ができる計画があるので、この辺りの地価は確実に上がります』と説明して、買主がこれを信じた場合」などがこれに当たります。

ただし、消費者契約法の目的は消費者である一般の個人を保護することにありますから、この方法による解除ができるのは、売主または買主が不動産業者の場合に限られます。

⑥売主と買主の合意による解除

売主の「●●をいくらで売ります」という意思と、買主の「●●をいくらで買います」という意思の合致によって成立する売買契約は、同様に、売主と買主の意思の合致によって解除することができます。

すなわち、これまで見てきた①~⑤のいずれの解除もできない場合であっても、売主と買主が話し合って双方が合意できるのであれば、不動産売買契約の解除が可能なのです。

ただし、相手方が合意してくれなければ解除はできないわけですから、解除を申し出る方は、それなりの条件の提示が必要になるでしょう。

話し合いの結果、幸いにして相手方が合意解除に応じてくれた場合には、後日の紛争を防止するため、不動産売買契約を合意解除する旨と、話し合いによって決めた条件(手付金の扱いや違約金支払いの有無など)を、必ず書面化しておくことをお勧めします。

不動産売買契約をした後の解約(解除)は慎重に

以上のとおり、不動産売買契約をした後であっても、一定の場合には、売主側からも買主側からも契約を解約(解除)することができます。

しかしながら、不動産売買契約は大きなお金が動く取引であるだけに、契約した後で解約(解除)しようとすると、解約(解除)の可否やその条件をめぐって、思わぬトラブルを招く可能性もあります。

口頭で解約(解除)の意思を伝えることも法律上は有効とされていますが、客観的な証拠を残すためにも、書面で申し入れた方が良いでしょう。

また、契約当事者との関係で問題が生じなかったとしても、仲介業者との関係で問題が生じるケース(自己都合の解約で、仲介手数料の一部を請求されるなど)もあります。

このため、不動産売買契約をした後の解約(解除)は慎重に行う必要があります。

取り交わした不動産売買契約書の内容を見直してみて、解約(解除)の可否やその条件をよく確認しましょう。

不安がある場合は、不動産問題に詳しい弁護士に是非相談して下さい。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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