2026年(令和8年)4月1日から、新しい区分所有法が施行されました。改正法はこれまで区分所有者が持つ権利だけ定めていたところを、義務も定める内容にした上、国内にあるマンションの原状を踏まえた制度を創設するなど、マンション管理に関する重大な変更を含んでいます。また、マンションの総会の議決についてなども大きな変更点がありますので、今回はこの法改正について概要を2回に分けて解説していきます。

2026年(令和8年)施行の区分所有法改正の概要(前編)

区分所有法改正の目的

 2026年に施行された改正区分所有法は、日本国内マンションに関する、2つの「老い」への対応を目的としてなされたと言われています。この2つの「老い」とは、マンションという「建物」の老朽化と、そのマンションの区分所有者、つまり「住民」の高齢化を指します。

 また、所有者不明な居室・区分所有者が非居住であるなど、マンションの管理が不十分になっていたという問題もありました。

 そこで、老朽化したマンションの維持等のために、マンション管理の円滑化・マンション再生の円滑化・被災したマンション再生の円滑化、というための方策が求められたのです。

マンションの管理の円滑化

 改正前の区分所有法では、区分所有者についての「権利・権限」などは規定がありましたが、「義務」についての規定はありませんでした。区分所有者は、管理組合との関係では「権利の主体」であって「義務の主体」でもあるということが明確にされた規定がなかったのです。

そこで改正法では、区分所有者の管理に関する一般義務として5条の2で、

「区分所有者は、区分所有者の団体(=管理組合)の構成員として、建物ならびにその敷地および附属施設の管理が適正かつ円滑に行われるよう、相互に協力しなければならない」と定めました。

これは、管理に非協力的な区分所有者が生じる状況を問題視し、区分所有者にも一般的な義務を認めたものです。

ただし、この規定があるとしても、実際に非協力的な組合員に対し、何か具体的な対応ができるわけではないことには注意が必要です。この規定はあくまでも理念であり、その理念を実現するため後述の「除外決定の裁判」、「出席者多数決」、「管理不全専有部分管理制度」などの新規定・新制度が創設されているといえます。

 また、規約及び集会決議等の内容に疑義が生じたとき、この一般規定を解釈の指針にするという意味ではこの条文は重要といえます。

集会決議の円滑化

除外の裁判について

改正前は、総会の議決につき、全区分所有者を母数とし、区分所有者と議決権の一定割合以上の多数で決議ということになっていました。このような決議の問題点として、所在等が不明で総会に出席が見込まれない組合員も「反対票」と同じ扱いになってしまうということがありました。

そこで、改正法では、組合員数等の母数からの所在等不明区分所有者を除外することができる、という方法ができました(38条の2)。具体的には、「所在等不明区分所有者」を除く組合員(一般区分所有者)による総会決議ができる、という裁判が可能になったのです。

この裁判をするための請求権者としては、管理者、管理組合法人、そして他の区分所有者 が挙げられます。

「所在等不明」というのは、「区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」ということであり、当該区分所有者の氏名・名称などが不明であり、特定することができないとき や、当該区分所有者の住所・所在を知ることができないとき、区分所有者が死亡したが、その法定相続人がいない場合や、法定相続人の全員が相続の放棄をした場合(自然人)、当該法人の事務所の所在を知ることができず、かつ、当該法人の代表者の氏名等を知ることができないとき(代表者がいない場合を含む)又はその代表者の所在を知ることができないとき(法人)を意味します。

 この「所在等不明」というためにはどの程度の調査を尽くす必要があるかがポイントとなりますが、具体的には、公的記録の調査などの必要な調査をしても、区分所有者を特定することができず、又はその所在を知ることができないこと が必要と考えられています。例えば、不動産登記簿の調査をして、そこに記載のある住所等から住民票、商業・法人登記簿を調べたり、専有部分等の利用状況を調べるなどする必要があります。

実際に除外の裁判を得た後は、当該対象となった所在等不明区分所有者は、議決権を有さず、各種決議における頭数要件からも除外されることになります。

議決権はありませんから、その所在等不明区分所有者に対して集会の招集通知を発する必要もなくなります。

総会するたびにこの除外の裁判をする必要はなく、一度裁判が出れば所在等不明区分所有者の除外の裁判が取り消されるまで効力を有します。

また、法律上は「除外できる」という表現になっているため、逆に所在等不明区分所有者を決議の母数に「含める」ということも可能なようにも見えますが、.所在等不明区分所有者の除外の裁判がされた場合には、当該所在等不明区分所有者を決議の母数に含める取扱いをすることはできず、恣意的な運用はできません。

もし、裁判が認められたにもかかわらず、所在等不明区分所有者が総会に出席してきたとしても、上述のとおり所在等不明区分所有者の除外の裁判が取り消されない限り有効であるため、当該区分所有者を決議の母数に算入することはできません。

定足数・議決権数の緩和

 また、今回の改正法により、定足数や議決権数の緩和をしている決議があります。

①普通決議(§39条1項)
②共用部分の変更(§17条1項)
③規約の設定、変更及び廃止(§31条1項)
④管理組合法人の設立及び解散(§47条1項)
⑤管理組合法人による区分所有権等の取得(§52条の2第1項)
⑥義務違反者に対する専有部分の使用禁止請求等(§58条2項等)
⑦復旧(§61条5項)の決議

については出席した区分所有者及びその議決権の多数による決議で決することができることになりました。つまり、集会に出席せず議決権も行使しない区分所有者を決議の母数から除外することになる、ということです。

これに対し、マンションの建替え決議等、「区分所有権の処分を伴う決議」は除外ができません。 

ただし、②から⑦の決議は、定足数の定め(原則として、区分所有者及び議決権の各過半数)があります。

以上のとおり、出席するか否かが決議に影響するため、非参加区分所有者への手続保障を図る観点から、招集通知の重要性が増すことになりました。そこで、

ア 集会の招集通知の送付期限(会日より少なくとも1週間・35条1項但書)
イ 招集通知の記載の充実化

というような点も、併せて変更されました。

イは、普通決議事項を含む「全ての会議」の目的事項について、議案の要領を示さなければならなくなったことを指します(35条1項本文)。

以上のとおりの改正を受けて、改正区分所有法では「出席区分所有者の多数決によることとされている特別決議」について、そのマンションの管理規約で「全ての区分所有者及びその議決権を母数とする」と定めるとどうなるか、という問題が生じるようになりました。この点は、出席・委任状や議決権行使書の提出もしない組合員によりマンション管理等の決議が円滑にできないことを防ぐ趣旨で今回の法改正がありましたので、法律上、「出席区分所有者の多数決による」とされている特別決議について、管理規約で、「全ての区分所有者及びその議決権」を母数とすることは認められない、と解すべきとされています。すなわち、この場合改正法が管理規約よりも優先され、出席者を基準として決議しなければならない、ということです。

「客観的緩和事由」がある場合の共用部分の変更

また、共用部分の変更(軽微変更を除く)についての決議に関し、客観的に共用部分の変更を行う必要性が高い状況(客観的緩和事由)がある場合、決議の多数決割合引下げられる、という改正もされました(17条1項)。

「客観的緩和事由」とは、

①共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利・利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合における、その瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更 例)耐震性不足・壁の剥落等の危険性 等
②高齢者、障害者等の移動又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるために必要となる共用部分の変更 例)階段しかないマンションにエスカレーター設置 等

を指し、これらの事由がある場合については、多数決割合を「4分の3」から、「3分の2」に引き下げることになっています。さらに、管理規約により頭数要件だけではなく「議決権要件」についても、過半数まで減ずることができるようになりました。

共用部分の管理・変更と同時にする専有部分の保存、利用改良

改正前は、共用部分に属する給排水管等を交換する工事は集会の決議で決定することができましたが、専有部分に属する給排水管を交換する工事については明文がありませんでした。

そこで、改正法ではこの点を明確に規定しています。新たな規定では、専有部分の保存行為や利用改良行為を伴う共用部分の変更や管理行為につき、「管理規約」に定めがあれば、共用部分の変更や管理行為と同様の多数決で決めることができるとしています。

これは例えば共用部分だけではなく、専有部分も含んだ配管の全面更新をしたい場合などに有用です。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 相川 一ゑ

マンション法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。平成21年登録。
令和4年、管理業務主任者試験及びマンション管理士試験に合格、同年よりマンション管理士登録。数多くのマンション管理組合から依頼を受け、管理費等請求・区分所有法に基づく競売事件などを担当。