紛争の内容
依頼者は、亡被相続人Aの相続人のひとりX。元々、被相続人Aは、不動産会社Yから土地・建物(以下「本件物件」)を3000万円で購入し、居住していた。しかし、本件物件の名義は購入後も数年に渡り不動産会社Yのままだった。その後、被相続人Aが死亡したため、遺産分割協議の前提として、XがAの遺産を整理していたところ、被相続人Aが居住していた本件物件が不動産会社Y名義のままになっていることが発覚した。

交渉・調停・訴訟などの経過
Xから依頼を受け、不動産会社Yを相手方として、「本件物件の名義を被相続人Aに移転せよ」という裁判を申し立てた。

本事例の結末
被相続人Aと不動産会社Yとの間の売買契約書と売買代金の領収書が残っていたため、裁判でこれらの証拠を提出し、判決では無事にXの主張が認められる結果となった。

本事例に学ぶこと
この裁判では相続人のひとりであるXが原告となり、裁判を申し立てたものですが、X名義に登記を移せるわけではないため、登記をすでに亡くなられている被相続人A名義に移すよう申立てを行わざるを得ないという問題がありました。この点については、先例があり、相続人のひとりであるXが単独で、被相続人名義に移すよう申立てができました。このような事案の場合、連絡の取れない相続人がいたりすることも多いので、相続人全員で申立てをする必要がないという点は使い勝手のよいものであると感じました。
本件では不動産会社Yに登記名義がある以上、裁判中に不動産会社Yが第三者に本件物件の所有権を移転させる可能性もありました。そのため、裁判所に対し、裁判中に不動産会社Yが本件物件の譲渡、担保権の設定、賃貸等の処分が出来ないようにする仮処分の申し立てというものを行いました。この仮処分は裁判所が迅速に処分を出してくれるというメリットがありますが、あらかじめ裁判所に予納金を納めなければならないため、その資金の用立てが必要なるという問題もあります。
自分が所有していると思っていた不動産の登記名義が他人だったということはあまりないことかもしれませんが、そのような場合の一例としてご紹介をさせていただきます。

弁護士 森田茂夫