紛争の内容
Aさんは、昨年亡くなった夫Bから自宅を相続したが、自宅の土地・建物には、30年以上前に債権者をCとする根抵当権の設定登記がなされていた。
Aさんの記憶では、Bは確かにCからまとまった金額を借り入れたものの、こつこつ返済を続け、今から10年以上前に完済している、また、Bはその後Cから借り増しはしていない、とのことであった。
CからBに対する債権はD社に債権譲渡され、D社が現在の根抵当権者となっている。
Aさんからこの根抵当権の設定登記を抹消できないか相談を受け、D社との間で交渉することとした。

交渉・調停・訴訟などの経過
弁護士から、D社に対し、時効中断事由としての債務の承認をするわけではないことを断ったうえで、死亡したBに対する債権の取引一覧表を開示するよう通知を発送したところ、D社から連絡があり、「債権譲渡は受けたものの、あまりに古すぎて記録すら残っていない。時効消滅ということで争わない」との回答があり、任意で根抵当権の設定登記の抹消に協力してくれることになった。
ただ、D社としても、債権譲渡を受けたのに現実の回収ができなかったこと、Aさんの自宅は比較的地価の高い場所に位置し、その他の抵当権等の負担も一切ないこと(=D社の根抵当権さえ外すことができれば、一般市場で高値で売却することも可能)から、判子代として60万円を支払って欲しいとの希望が出された。
そこで、Aさんと相談し、「任意に協力してもらえて早期に登記を抹消できるなら」ということで、当該判子代を支払うことにした。

本事例の結末
D社に60万円を支払うのと引き換えに、D社から根抵当権の設定登記の抹消に必要な全ての書類を出してもらい、速やかに根抵当権を抹消することができた。

本事例に学ぶこと
債権者が被担保債権の時効消滅を争わず、また、双方の利害が一致して協力のための条件がすぐに整ったため、依頼から半月も経たないうちに事件が解決した。

弁護士 田中智美