賃借人から、「新型コロナウィルス感染症の影響で収入が減ってしまい、従来どおりの賃料を支払うのが難しいので、賃料を減額または免除してもらえないか?」と求められた場合、賃貸人はこれに応じる義務があるのでしょうか。

現在、国土交通省からは、飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸している事業者に対し、新型コロナウィルス感染症の影響で賃料の支払が困難となったテナントに対しては賃料の支払猶予に応じるなど、柔軟な措置を取るようにとの要請が出されているところです。

しかしながら、上記の要請には法的拘束力まではありませんので、賃借人から新型コロナウィルス感染症の影響を理由に賃料の減免を求められたとしても、原則として、賃貸人にはこれに応じる義務はないということになります。
(※例外として、例えば、賃貸人がテナントの入居しているビル全体の閉鎖を決定し、物件を使用収益できない状態にした場合は、民法611条1項「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」に該当し、賃料が当然に減額される可能性があります)

それでは、賃借人が新型コロナウィルス感染症の影響を理由に決められた額の賃料を支払わない状態が続いた場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

まず、賃借人が負っている「賃料を支払う」という金銭債務については、不可抗力をもって抗弁とすることができないとされています(民法419条3項)。
そのため、賃貸借契約に特別な条項がある場合を除き、賃借人が決められた額の賃料を支払わないことは賃借人の債務不履行となります。

しかし、賃貸借契約の場合、賃借人に債務不履行があったというだけでは契約を解除することはできず、その不履行によって「賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊された」といえることが必要です。

今回は、特措法に基づく緊急事態宣言が全国に発出され、宣言解除後であっても種々の自粛要請の解除は段階的であることなどから、経済活動が従前のレベルに戻るにはかなりの時間を要するものと推測されます。
このような状況の中では、感染症拡大の影響により収入が減ってしまった賃借人による賃料不払いが、(もちろんケースバイケースではあるものの)必ずしも、「賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊された」とまではいえない、と評価されるケースも出てくると思われます。

つまり、賃料不払いがあっても、賃貸人は賃貸借契約を解除することができない可能性があるということです。

賃料の減免に応じる場合に取り交わしておくべき書面

また、次の賃借人を募集するコスト等を考えると、現在の賃貸借契約を解除することはせずに、一定期間の賃料の減免に応じた方が、かえって賃貸人の経済的利益に資するとも考えられます。

そこで、賃借人からの賃料減免の求めに応じて、一定期間、賃料を減免する旨の合意をしてもよいでしょう。

この時、口頭で約束しただけでは、「いつからいつまでの賃料」を、「どれだけ減額(あるいは免除)するのか」が不明確となりがちで、後に紛争に発展する可能性もあります。

そのため、合意の内容は必ず書面にしておくべきです。
次にその例を挙げておきます。

賃料減免に応じた場合に受けられる優遇措置

賃貸人(個人・法人を問いません)が、賃借人の求めに応じて賃料を減免した場合で、次の要件を満たすときは、減免した賃料を税務処理上の損金として計上することが可能です。

①取引先等において、新型コロナウィルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、または困難となるおそれが明らかであること

②実施する賃料の減免が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること

③賃料の減免が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間)内に行われたものであること

上記の措置は、テナント以外の居住用物件や駐車場などの賃貸借契約においても同様に適用されます。

また、新型コロナウィルス感染症の影響により事業収入に相当の減少があった場合(不動産所有者等がテナント等の賃料を減免した場合も、ここで言う収入の減少として扱われます)、中小事業者・中小企業者が所有し、事業の用に供する建物及び償却資産(設備等)の令和3年度の固定資産税、都市計画税が、事業収入の減少幅に応じて、ゼロまたは2分の1に減免される制度もあります。