紛争の内容
Aは、鉄鋼業を営むB社に対し、A所有の工場と倉庫を月額80万円で賃貸してきた。
B社は10年以上遅れることなく賃料を支払ってきたものの、3か月前から賃料の入金が途絶えたため、管理会社を通じて督促をかけていたところ、突然、裁判所からB社の破産を知らせる通知が届いた。
工場と倉庫には鉄材や特殊な加工機械がびっしり詰まっており、今後どのように対応すればよいのか困り果てたAから、物件の明渡しに関する交渉を依頼された。

交渉・調停・訴訟などの経過
すぐに破産管財人に連絡を取り、双方が現地に赴いて現状を確認。
鉄材や機械類の多くは同業者に売れるものであったので、破産管財人がこれを売却し、物件から運び出すことになった。
その他、売れずに残ってしまうもの(廃材や廃鉄骨、古いトラック等)については、破産管財人がB社の売掛金を回収し次第、B社の費用で専門業者を頼んでもらうことにした。
一部倉庫内の壁が壊れている部分が見つかったが、Aの好意により、この点については不問に付すことにした。

本事例の結末
工場・倉庫及びその敷地内の全ての物品を搬出してもらい、まっさらな状態で明渡しを受けることができた。
未払賃料については預かっていた敷金(240万円)と相殺することとし、互いにこれ以上の債権債務がないことを確認する旨の合意書を破産管財人と取り交わした。

本事例に学ぶこと
滞納賃料がある、物件内に大量の荷物が残されたままになっているといった状態で、裁判所から賃借人破産の通知書を受け取り、パニックになるオーナーは少なくない。
破産者が賃借していた物件の原状回復(明渡し)については破産管財人がその業務を担うことになるが、本件のB社には原状回復費用に充てられるだけの財団(破産会社の財産)があったこともあり、Aの経済的損失を最小限に抑えつつ、明渡しを受けることができたのは何よりであった。

弁護士 田中 智美