紛争の内容
 Aは、10年程前から、アパートの1室を賃料月額5万円でBに貸してきたが、Bは、酒を飲んで夜中に騒いだり、同居人と激しい喧嘩をして警察を呼ばれたりするなど、問題のある賃借人であった。
 そのBが賃料の支払いを怠るようになり、Aは温情から支払いを待っていたが、ある日、Bは物件内で刑事事件を起こし(薬物犯罪)、警察に逮捕されてしまった。
 その時点ですでに16か月分以上の賃料が滞納となっており、初犯でないBの実刑(服役)も予想されたことから、Aは部屋の明け渡しを求めて弁護士に依頼した。

交渉・調停・訴訟などの経過
 まずは、賃貸借契約解除の内容証明郵便を送る必要があったが、Aが警察官から聞いたBの勾留先警察署に送ったところ、Bには接見禁止(刑事弁護人以外の者とは面会・手紙の授受等ができない)の処分がついていたために、これをB本人に送ることができなかった(警察の留置管理課にて留め置きされたままとなる)。
 そこで、訴訟提起を先行させることとし、訴状の送達と同時に未払賃料の支払催告・解除の意思表示を行う方法に切り替えることにした。
 Bの刑事裁判は終了したようであったが、もと勾留されていた警察署ではどの刑務所に移送されたか回答してもらうことができないため、弁護士照会制度を使って、法務省にBの収容先刑務所を問い合わせた。1か月半以上経ってようやく法務省から回答が来たので、回答された刑務所をBの居所として訴訟を提起した。
 ところが、裁判所からBに訴状を送達したところ、Bはすでにその刑務所にはおらず、裁判所からの書類が届く前日に別の刑務所に移送になっていることが判明した。もっとも、もといた刑務所に問い合わせても、移送先の刑務所がどこかは回答してもらえないため、ここでもやむなく、弁護士照会制度を使って、法務省にBの新たな収容先刑務所を問い合わせた。前回同様、1か月半以上かかってようやく回答が得られ、今度こそBの居所となる刑務所が判明した。
 その移送先刑務所にてBが訴状を受け取り、明渡し猶予を求める旨の答弁書がBから提出されたが、Aは和解を断り、明渡しを命じる判決が言い渡された。
 判決の確定後、速やかに明渡しの強制執行を申し立てた。

本事例の結末
 強制執行により、B服役中のまま、物件の明け渡しを受けることができた。

本事例に学ぶこと
 賃借人が刑事事件を起こして警察署に勾留されていたり、刑務所で服役中であっても、賃料未払いを理由に契約を解除したうえで物件の明け渡しを求めることはもちろん可能である。
 しかし、本件のように、接見禁止処分がついていたり、移送に次ぐ移送で居所が変わることがあること、その際、警察署や刑務所では被疑者・被告人の移送先について回答しないため、直接法務省に照会するしか方法がないことから、契約解除の内容証明郵便や裁判所からの書類の送達にはかなりの時間がかかることを覚悟しなければならない(本件では、依頼を受けてから明渡しの強制執行が完了するまで、およそ9か月半かかっている)。