紛争の内容
15年ほど前、A社はビルの3階フロアにある1室を、エステサロンを経営するB社に賃貸する旨の事業用賃貸借契約を締結し、B社はそこでエステサロンを経営してきました。
ところが、数年前からB社の経営が傾き始め、賃料の支払いが滞るようになりました。
A社が催促すると、B社社長は「今の事業を高く売って、その売却代金で支払うから待って欲しい」と言い、その旨の誓約文も差し入れるなどしましたが、一向に解消されず、滞納賃料は400万円以上にのぼりました。
ある時、A社担当者が店舗に様子を見に行くと、営業日のはずが真っ暗で誰もおらず、B社社長の携帯もつながりません。
施錠された入口ドアからは、什器・備品類がそっくりそのまま残されているのが見えました。
A社は、B社が夜逃げしたと判断し、店舗の明渡しを求めて当事務所にご依頼になりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
内容証明郵便で未払い賃料の支払いを催告し、賃貸借契約を解除した後、速やかに建物明渡請求訴訟を提起しました。
しかし、夜逃げしたB社は、裁判所が発送する訴状等の書類を受け取らず、送達のための実態調査が必要となりました。
B社(まだ破産はしていないようでした)の本社住所や代表者住所を調査しましたが、いずれも営業実態ないし居住実態はなく、行方不明ということで公示送達の形が取られました。
しかし、B社はその後も本社住所や代表者を変更することを繰り返し、その度にこちらは対応に追われ、明渡しを命じる判決が出た後も更正請求が必要となったり、判決の公示送達の効力が問題視されたりと、裁判所や弁護士にとっても難しい案件となりました。
もっとも、最後には、判決に基づく強制執行を実施して、B社が借りていたビル3階の1室の明渡しを実現することができました。
本事例の結末
判決に基づく強制執行を実施して、無事、B社が借りていたビル3階の1室の明渡しを実現することができました。
本事例に学ぶこと
本件ビルは都心の一等地に存在していたため、月額賃料も高い分、賃料相当損害金も高額になってしまう状況でした。
そのため、弁護士としては、とにかく早期に明渡しの強制執行まで漕ぎつけることを目標に案件対応に当たりましたが、他の債権者にも追われているらしいB社が頻繁に本社住所や代表者を変更するために、かなりの時間を費やされる結果となってしまいました。
私が手掛けた同種事案でも、近年稀に見る悪質な賃借人でした。
弁護士 田中 智美