紛争の内容
賃貸した複数土地上に、複数建物を保有する賃借人がお亡くなりになり、その後10年以上にわたり、地代の支払がない土地賃貸借において、地主が賃貸土地上の建物を取り壊し、更地変換を求めた建物収去土地明渡請求事件。
被相続人調査を行い、相続人を確定し、相続人らに対し、まずは、話し合いを求める、示談交渉から入ることとしました。
交渉・調停・訴訟などの経過
(1)土地上の建物所有名義人の調査、賃借名義人以外の方の名義の建物であることが判明
賃貸人から頂いた賃貸借契約書、土地の登記簿謄本から、その土地上の建物所有名義人を調べました。
すでに亡くなっている賃借人に対しては、二筆の土地を賃貸していることも判明しました。
また、借地上には、計4棟の建物があり、登記済み建物は2棟でありましたが、一つの建物は、賃借人の兄弟の名義、つまり、賃借人以外の名義であることが判明しました。
(2)各名義人相続人の調査
借地上の建物所有名義人から、相続関係を調査していきました。
本件建物が自宅であれば、その所在地住所をもとに、本籍地表示付き住民票除票を請求することから始めました。その後、戸籍の連続を調査し、配偶者及び第一順位の相続人である子の本籍地が判明しましたら、戸籍の附票を取得します。
これで、亡くなった賃借名義人の相続人の住民票の住所が判明しました。
(3)借地上の建物の取り壊しによる更地変換への協力打診の手紙の発送
登記済み建物の所有名義人のそれぞれの、相続人らに対して、将来の訴訟提起も見据えて、未払い地代の支払い催告と、賃貸借解除の意思表示の各通知をします。
さらに、依頼者と協議して、訴訟を提起して判決を得て、判決をもとに、建物収去土地明渡の強制執行を申立てる正攻法の前に、地主側による建物取壊しの同意と、更地後の、当該土地には建物が立っておらず、土地の負担がないことを示すために、建物登記の滅失登記の申請による協力打診の手紙を出すことになりました。
その際には、仮に、家庭裁判所で相続放棄の手続をとられている場合には、相続放棄の申述受理通知書化相続放棄申述受理証明書の写しを交付してもらいたいともお願いを添えました。
賃借名義人の相続人である、配偶者、そしてそのお子さんたちは、相続放棄をしていないこと、借地上の建物を地主賃貸人側で取り壊すことには協力すること、その後、建物滅失登記申請をすることもお約束いただきました。
そして、今後は、賃借名義人の長男の方を窓口とすることになりました。
他方、借地上の建物名義が、土地賃借人でない方の相続人が複数あり、その方々は、借地土地の所在地から遠く離れた関西地方の方でした。
その方々からは、手紙を受け取り、お電話いただき、相続放棄していること、その証明書の写しを送付するとのご連絡をいただきました。
その証明書を確認すると、確かに相続放棄されておりましたので、改めて、建物名義人の第二順位、第三順位の相続人の調査にかかりました。
すると、建物名義人の兄弟姉妹のお子さんが複数いらっしゃることが判明しましたので、同じく、話し合いを求める通知を差し上げました。
すると、そのうちの一人から、お電話いただき、自分たちも相続放棄の手続をとっていること、しかし、今は、その書類はないとの回答がありました。
(4)管轄家庭裁判所に対し、相続放棄申述受理の有無照会、証明書交付申請
そこで、改めて、借地上の建物名義人の相続人が、亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、相続放棄の手続をとったかを調査することになりました。
このためには、管轄家庭裁判所に対し、申請人である地主が、その権利として、土地上の被相続ンン名義の建物の取り壊しを求める、法律上の利害関係を証明する事情の説明書(ほぼ、訴状と同様のものです)を作成し、戸籍の連続を調査して、取得した戸籍関係書類とともに、被相続人について、相続放棄申述申立ての有無を照会する手続きを取りました。
家庭裁判所から、各相続人は相続放棄の手続をとったことが明らかになりましたので、その照会結果を踏まえ、相続放棄申述受理証明書の交付を申請しました。
(5)相続人不存在の場合の建物収去土地明渡請求について
調査の結果、賃借名義人以外の名義人の建物は、相続人不存在が判明しましたので、民法上、相続財産法人の帰属財産となります。
法治国家における自力救済禁止の原則に則れば、当該名義人の相続財産法人を被告として、訴訟を提起し、併せて、そのための特別代理人を選任して、訴訟追行するのが原則です。
現地調査をしましたところ、土地賃借名義人以外の名義人の建物は、居宅としてではなく、車庫、農機具倉庫及び畜舎として使用されていたようであり、梁は一部落ち、トタン屋根も一部剥がれている、朽廃しかかかった建物でした。この建物が崩れると公道側に倒れる危険性が認められました。
そこで、依頼者と協議して、賃借名義人の相続人から取壊し同意を得ている3棟の建物とともに、朽廃しかかったこの建物も同時に取り壊し、緊急避難的に、安全を確保しようということになりました。
(6)土地上建物取壊し、相続人に対し、滅失登記申請願い
地主が依頼した建物解体業者により、土地上の建物の解体工事(と更地工事)が済み、解体業者より、建物滅失証明書と、その工事を担当した会社の印鑑証明書などが地主に交付されました。
このうち、名義人の相続人がある者については、その相続人代表者の方に、建物取壊しが完了した旨の報告とともに、建物滅失証明書、解体業者の印鑑署名書などを交付し、滅失登記申請をお願いしました。
しばらくして、滅失登記の完了証が返送されてきました。
(7)相続人不存在建物の滅失登記手続
さて、相続人不存在の、被相続人名義の建物滅失登記申請については、同被相続人名義の戸籍関係書類、相続放棄申述受理証明書とともに、同名義人の建物の滅失証明書他をそろえて、地主が法務局に滅失登記申請を行うことになりました。
本事例の結末
土地は更地となり、滅失登記も完了しました。
土地所有者である依頼者は、今後は、この土地を当分の間は駐車場として賃貸し、場合によっては売却処分も考えているとのことでした。
本事例に学ぶこと
依頼者は、地代が長らく未払であり、賃借人死亡後、相続人やその親族も住まなくなった空き家が放置され、朽ち果てていくままになっているのが、不用心であることや、近所の方にも迷惑になることや、敷地土地が放置され、荒れ放題になっていくのが気がかりでした。
このような事案は、単純な建物収去土地明渡事件ではなく、相続人調査、判明した相続人が相続放棄しているか否かの調査、相続放棄の申述受理照会、その結果を受けての証明書取得、その後は、本来であれば、相続人不存在建物の建物収去土地明渡については、訴訟を提起し、特別代理人の選任を受けて、訴訟提起し、その判決を受けて、それを債務名義として、建物収去土地明渡の強制執行を申立てるという、相続人不存在事案のフルコースを行うべき事案でした。
相続人が判明してから、賃貸借解除の効力が発生するまで、配偶者及び第一順位相続人に対しての3か月の熟慮期間の経過と、相続放棄の有無の確認、そして、その方々が全員相続放棄していたら、さらに、第2順位の相続人に対して、同様の手続をとり、3か月の熟慮期間の経過を待ち、そして、相続放棄申述受理の有無確認、その方々も全員相続放棄をしていたら、次に、第三順位の相続人らに、催告通知を発し、3か月の熟慮期間の経過を待ち、相続放棄の申述受理の確認をします。
これで、少なくとも10か月から1年はかかります。
さらに、相続人全員が相続放棄をしていた場合には、相続財産法人を相手取って、建物収去土地明渡請求の訴訟を提起するとともに、そのために、受理裁判所に対し、特別代理人の選任を申請し、訴訟を行い、認容判決を得、それをもとに、強制執行に至ります。これが、約4か月から半年はかかります。
よって、順調な手続きであったとしても、ご依頼から2年くらいは覚悟してもらいたいとご説明しています。
それでも、これらの手続をよどみなく行うことで、長年の懸案を解決することが可能です。
同様な事案でお悩みの方は多いと思います。まずは、ご相談ください。
弁護士 榎本 誉





