紛争の内容
依頼者のAさんはさいたま市内に土地を所有していましたが、隣接するB社から「工場を増設したいので、是非売って欲しい」との話をされ、売買に向けて交渉することになりました。
しかし、Aさんは不動産取引に不慣れな高齢者であるのに対し、B社には顧問弁護士がついていて交渉能力に格差がありました。
そこで、売主側Aさんの代理人として、B社と売買契約締結に向けた交渉を弁護士が行うこととしました。

交渉・調停・訴訟などの経過
代金については近隣の取引事例の相場から早期に8,500万円と決定。
しかし、対象となっている土地には正確な測量図が存在しないうえ、逆隣りの建物の一部が明らかに境界線を越境していることが判明しました。
そこで、B社側と交渉のうえ、売買契約書には、
・対象土地を現状有姿のまま売却すること
・売主は正式な測量を行っておらず、測量を希望する場合にはB社の負担でB社が行うこと
・別紙のとおり逆隣りの建物が越境している部分があるが(特定のため写真と簡単な図面を添付)、今後、逆隣りとの間で越境に関する紛争が生じた場合は、B社の責任において解決すること
を特約条項として記載することとし、Aさんの責任を全面的に免除してもらう内容にしました。
その後、全当事者立ち合いのもと、Aさん・B社社長が売買契約書に署名・押印して契約を成立させ、B社による代金の決済、所有権移転登記に必要な書類の授受、固定資産税の清算まで、双方の弁護士関与のもとに進めていきました。

本事例の結末
ほぼAさんの希望するとおりの条件で売買契約を締結することができ、代金決済、所有権移転登記など一連の必要作業もスムーズに完了させることができました。

本事例に学ぶこと
「きちんとした測量をしていない」、「隣地との境界線上に越境物がある」といった場合、契約書においてそれらを手当てする条項を入れておかないと、後日、買主側からそれらを原因として損害賠償請求を受ける可能性があります。
本件では、B社がなるべく早くこの土地を入手したいと考えていたようで、かなり売主側に有利な条件であるにもかかわらず、最終的にはすべてを入れ込んだ契約を締結することができました。

弁護士 田中 智美