紛争の内容
依頼者と隣家住民とは、長年にわたり、境界標の場所についての認識の違いにより、境界を巡ってトラブルとなっていました。そのため、依頼者が敷地内で隣地との間に塀の設置工事を開始した際には、隣地住民から越境しているとの主張を受けて工事を断念したり、別の隣地との測量をしようとした際に抗議されて測量ができなかったりという問題が生じていました。そこで、依頼者は問題の抜本的解決のため、弊所にご依頼いただくことになりました。

交渉・調停・訴訟などの経過
まずは、筆界特定制度の利用を考えました。しかし、筆界特定制度は行政による判断であって裁判所を拘束しないため、終局的抜本的問題解決には至りません。また、境界標を設置するには、隣地所有者の同意も必要となります。本件では、隣家住民の強い反発が予想され、筆界特定制度の方法では、紛争解決には至らないとの判断に至りました。そこで、裁判所に対し、境界確定訴訟の提起をすることになりました。
裁判が始まってみると、意外にも、隣家住民は、特に争う姿勢を見せませんでした。これまでのトラブル解決方法とは異なり、裁判にまで発展してしまったことから、隣家住民としても、客観的に認められないような不合理な主張をできなくなったようです。
また、境界確定訴訟は、必ずしも訴え提起をした原告に有利になるとも限らず、裁判所が客観的資料に基づいて、境界を定める手続であり、隣家住民にとっても、境界トラブルを解決するメリットがあります。訴え提起がされ、隣家住民にも訴状が送達されたことで、隣家住民から私たち弁護士に電話がかかってきました。そこで、本件裁判の内容、隣家住民にもメリットがあることを丁寧に説明した結果、隣家住民の理解を得ることができました。
期日間に、裁判官・弁護士・測量士等が現地に立ち会いをし、測量を行いました。その際、隣家住民は特に手続の進行を争うようなことはしませんでした。もっとも、裁判所による判断の内容によっては、隣家住民と依頼者との紛争の蒸し返しがされてしまうことが想定されたため、弁護士から隣家住民に対し、どのような経緯で、当事者間の認識と異なる境界が認められ得るのか、丁寧に説明を尽くしました。

本事例の結末
測量の結果、当事者が認識していた境界線と正しい境界線とは、実際には異なることが判明しました。
そして、隣家住民は、依頼者側により選ばれた測量士による測量方法に異議を述べず、測量結果に基づく判決が出されました。そのため、弁護士が依頼を受けてからわずか1年足らずで、裁判所による判決が出されるに至りました。
その後、弁護士が立ち会い、境界標を正しい位置に打ち直し、長年にわたる境界標を巡る紛争が終結するに至りました。

本事例に学ぶこと
近隣トラブルの一例として境界線を巡る紛争があり、そのような境界線を巡る紛争が発生する原因として、測量技術(過去の測量技術の稚拙さ)が挙げられます。過去、縄を使って測量をするという原始的な方法によらざるを得ず、本来あるべき境界線とは異なる場所に境界標が設置されているケースがあるのです。現在は、GPSを使った精緻な測量をすることが可能になり、非常に正確な測量を行うことができるようになりました。本件も、そのような最新技術を用いた測量を行うことで、依頼者・隣家住民が納得する境界線が定められるに至りました。
また、長年にわたって先鋭化してしまった近隣トラブルの解決にあたっては、弁護士が関与し、裁判所による判断がなされることが必要なケースがあります。ただ、本件においては、裁判所の判断に委ねるにとどまらず、弁護士から相手方に積極的に丁寧な説明をしたことが、紛争解決に奏功することとなりました。

弁護士 田中智美、弁護士 平栗丈嗣