家賃滞納が起きて賃貸借契約を解除しても、任意に明渡しを受けられない場合は、不動産明渡の訴訟をするほかありません。しかし、不特定多数が出入りしている場合等は、判決をもらってもそのままでは強制執行ができない可能性があります。そうしたときのために、占有移転禁止の仮処分という手段を事前にとることがありますので、今回はその点解説致します。

家賃滞納による明渡しの強制執行とはなにか

まず、家賃滞納による強制執行について説明をします。
強制執行とは、「明渡しを命じる判決」に基づき、強制力をもって物件の明渡しを実現するための手続です。
簡単に申し上げると、強制的に賃借人や占有者を退去させることができる手続きです。

明渡しの強制執行は、「催告執行」(1回目の強制執行)と「断行執行」(2回目の強制執行)の2段構えとなっています。

まず、「催告執行」(1回目の強制執行)では、執行官や立会人とともに現地に赴き、賃借人に対して退去を促すとともに、明渡しの期限(原則として催告執行の実施日から1か月以内)を定めます。

次に、「断行執行」(2回目の強制執行)では、執行業者が物件内に残っている全ての荷物を搬出し、賃借人がその場に居座っていても執行官が強制力をもって物件から追い出します。鍵もこの時に交換してしまいます。

このように、最後は、強制的に明渡を実現できる手続きが、「強制執行」です。

強制執行ができなくなる場合とは!?

強制執行は、「明渡しを命じる判決に基づき、強制力をもって物件の明渡しを実現するための手続」と上で説明しました。
判決は、被告として特定された者にでます。例えば、ある人(例えば「Aさん」)名義に命令が出されます。
ですから、Aさんに対して、ある建物「GLマンション505号室」を明け渡せという命令がでたとしても、実際にマンションに居住しているのがBさんだった場合には、その判決は意味を持たないのです。
意味を持たないとは、Aさんに対する判決をもって、Bさんに対して強制執行はできないということになります。この場合、Bさんを被告として判決をとるべきなのです。
しかし、居住者が入れ替わり立ち替わりしている場合は、被告の特定ができず、原告の権利が実現できません。
そこで、現在住んでいる人を特定したり、住んでいる人が他の人を入居させて建物の使用を移転(「占有の移転」)させることを防いだりすることを目的に、「占有移転禁止の仮処分」によって、占有者(建物の使用者)を特定することができます。
この特定があれば、判決までの間に別人が建物を使用したとしても、特定された人物宛の判決で強制執行ができます。

占有移転禁止の仮処分のタイミングについて

タイミング的には、明渡の裁判の前に行います。
相手の占有が制限されることから、それなりに、こちらも理由を疎明しなければなりません。ほとんどの場合、裁判と同じくらいの証拠を揃えて提出します。
また、占有移転禁止の仮処分を行うには、裁判所に担保金を差し入れる必要があります。担保金の金額は、最終的に裁判所が決定しますが、賃貸の居住建物であれば、担保金は賃料の2か月~6か月分程度となることが多いように思います。なお、担保金は最終的に賃貸人に返却されます。
占有移転禁止の仮処分が裁判所から発令されると、執行官と一緒に、当該不動産にいくことになります。鍵を開けて建物の内部に入り、その時点で不動産を占有しているものを特定します。そして、例えば建物であれば、占有移転禁止をする旨の公示書を貼ります。
以上により、占有移転禁止の仮処分が終了し、以後、不特定多数が出入りしても、判決により明渡しの強制執行をすることができます。

実際にあった事例

最後に、実際に当事務所で担当した事例を紹介します。

アパートの一室と駐車場2区画を貸している大家さんからのご相談でした。
賃借人は、何年も賃料支払いの遅れが常態化しており、ここ数ヶ月はまったく賃料の入金が無い状態であるばかりでなく、不特定多数の人物がアパートに出入りしている様子でした。
大家さんは、可能な限り早く出て行ってほしいというご希望でした。

まずは、滞納賃料全額を支払うよう請求し、催告した期間内に支払が無い場合には賃貸借契約を解除する旨の連絡を手紙で行いました。

また、本件では、大家さんや管理会社の話から不特定多数の人物が出入りしていることが明白でしたから、占有移転禁止の仮処分を申し立てました。
アパートの住所や賃借人の電話番号をインターネットで検索すると、風俗店のような名前が出てきましたので、風俗店員の待機所や寮のような使われ方をしていることも判明しました。
そして、占有移転禁止仮処分の結果、現地に行き、風俗店員の一人が日常的に居住していたので、入居者とその店員を相手に明け渡しを求めて提訴しました。

賃借人と店員は、裁判の期日には出頭しなかったので、大家さんの言い分通りの判決が出ました。
その後、賃借人と店員は明け渡す様子が無かったため、強制執行の申立てをし、催告まで行いました。
明け渡し断行期日の前に、賃借人と店員が任意でアパートと駐車場を明け渡してくれたため、断行をせずに解決しました。

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グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、各分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
また、不動産の明渡しについては、豊富な経験があり、事例を紹介していますので、是非ご覧ください。
事例一覧
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/jirei/

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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