紛争の内容
Xは、所有するアパートの1室を月額7万円でYに賃貸したが、入居直後から賃料の支払いが遅れがちになり、4か月分が未納の状態となった。
Yは管理会社からの督促に対して「次の給料の入金後に支払う」等の約束はするものの、支払いがなされることはなく、Xは物件の明渡しを求めて弁護士に依頼した。

交渉・調停・訴訟などの経過
まず、弁護士から、Yに対し、5日以内に未払賃料全額を支払うよう請求するとともに、期限内に支払いなき場合は賃貸借契約を解除する旨の内容証明郵便を送付した。
Yは上記書面を受け取ったものの、期限内に支払いがなかったため、賃料不払いによる契約解除を理由に物件の明渡しを求める訴訟を提起した。
Yは裁判所からの訴状を受け取ったが、裁判には出頭して来ず、そのまま物件の明渡しを命じる判決が言い渡された。

本事例の結末
判決に基づき明け渡しの強制執行を申し立てる準備をしていたところ、Yが任意に物件から引っ越したため、強制執行を行うことなく物件の明渡しが完了した。

本事例に学ぶこと
明渡しを命じる判決が言い渡されても賃借人が居住を続けている場合には、引き続き明渡しの強制執行を行う必要があるが、本件のように、判決が言い渡された後、自ら物件から出ていく賃借人もいる。賃貸人にとっては、強制執行に関する費用(裁判所に収める執行予納金や、執行業者に支払う費用)がかからなくなり、経済的メリットが大きい。
もちろん、判決後に自分から進んで出て行くかどうかは賃借人次第ということになるが、本件のように、弁護士からの内容証明郵便や裁判所から送達される訴状を賃借人本人がきちんと受け取っている場合には、あり得ることである。

弁護士 田中 智美