紛争の内容
本件は、賃貸マンションの一室において、建物の経年劣化を発端とするトラブルです。
経年劣化から貸主と借主との間で原因や対応をめぐって意見の食い違いが生じ、次第に信頼関係が悪化していきました。貸主としては、建物の老朽化の状況等も踏まえ、当該居室について賃貸借契約を終了させ、明渡しを受ける方向で話を進めたいと考えるに至りましたが、当事者間の話し合いだけでは具体的な条件(明渡しの時期や立退料の金額、支払方法など)について折り合いがつかず、交渉が膠着した状態が続いていました。
このような状況の中、貸主より依頼を受け、弁護士として交渉及び合意書作成を担当することとなりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
依頼を受けた後、まずは借主との間で、明渡しの条件について任意交渉を進めました。訴訟等の法的手続によらず、話し合いによる解決(合意解約)を目指す方針とし、以下の点を中心に条件を詰めていきました。
- 明渡しの期限をいつに設定するか
- 立退料の金額をいくらとするか、また支払時期・支払方法をどうするか
- 明渡しが遅滞した場合の使用損害金の定めを設けるか
交渉の結果、一定の明渡期限を設定すること、当該期限までに一定額の立退料を借主指定口座へ振り込む方法で支払うこと、万一明渡しが遅滞した場合には一定の割合による使用損害金を借主が負担することなどについて、当事者双方の合意が成立しました。
合意内容については、後日の紛争を防止する観点から、合意解約及び明渡しに関する合意書を作成し、当事者双方の署名押印をもって契約書としての効力を持たせました。合意書には、明渡しの手順(残置物を残さず居室内の点検を経て鍵を引き渡すこと)や、立退料の支払時期を明渡完了の確認後とすることなど、実務上のトラブルを避けるための具体的な手続も明記しました。
さらに、明渡当日には、貸主・借主双方の立会いのもと、居室内に残置物がないことを確認し、鍵の引渡しと立退料の支払いが確実に行われるよう、弁護士自身も明渡しの現場に立ち会いました。
本事例の結末
合意書に定めたとおり、借主は期限までに残置物のない状態で居室を明け渡し、貸主は明渡しの完了を確認したうえで立退料を支払い、本件は円満に解決するに至りました。訴訟等の法的手続を経ることなく、当事者間の合意のみで紛争を終結させることができた事案です。
明渡し当日についても、事前に合意書の中で手順を明確にしていたことにより、当事者双方が迷うことなく手続を進めることができ、大きなトラブルもなく明渡しが完了しました。
本事例に学ぶこと
本事例に学べることは下記のとおりです。
第一に、賃貸借契約をめぐるトラブルは、原因そのものの解決だけでなく、当事者間の感情的な対立に発展しやすいという特徴があります。話し合いが停滞している場合には、早期に弁護士が交渉に関与することで、条件面の整理と冷静な協議が可能となり、解決までの時間を短縮できる場合があります。
第二に、明渡しに関する合意については、明渡しの期限や立退料の金額はもちろんのこと、支払時期・支払方法、明渡しが遅滞した場合の措置(使用損害金など)まで具体的に取り決め、書面化しておくことが重要です。条件を曖昧にしたまま合意すると、後になって「言った・言わない」の争いに発展しかねません。
第三に、合意書を作成するだけでなく、実際の明渡し当日の手続(残置物の確認、鍵の引渡し、立退料の支払いのタイミング等)まで具体的に取り決め、必要に応じて弁護士が立ち会うことで、合意内容が確実に履行され、紛争の再燃を防ぐことができます。
貸主・借主いずれの立場であっても、明渡しをめぐるトラブルでお悩みの際は、早めに弁護士にご相談いただくことで、円滑な解決につながる可能性があります。
弁護士 小松原 柊





