紛争の内容
Aさんは自己の所有する倉庫・事務所をB社に賃貸し、契約時に保証金として500万円をB社から預かりました。
その後、B社はその地での事業から撤退することになり、新たにC社(B社の元役員Dが新たに起こした会社)がその倉庫・事務所を借りたいというので、A・B間の事業用建物賃貸借契約を合意解除し、A・C間で同様の事業用建物賃貸借契約を締結しました。その際、B社が差し入れた保証金500万円はC社に引き継がれる旨の合意が3者間でなされました。
10数年後、C社も移転することになり、A・C間の賃貸借契約は合意解除されました。
これに伴い、C社からAさんに対し、保証金500万円を返還するよう請求がありました。
しかし、Aさんとしては、「C社による原状回復が終わっていないので、その費用を差し引いた金額を返したい」と考えており、これをC社代表のDに伝えたのですが、Dは「原状回復すべき施設などない」と反論。
Aさんの依頼を受けて、保証金返還につきC社と交渉することとなりました。

交渉・調停・訴訟などの経過
C社は、代理人弁護士を立てて、Aさんに対し、500万円全額を返還するよう求めてきました。
当方で事実関係をよく確認したところ、倉庫・事務所の敷地内に、未登記の車庫が設置されており、これは、かつてB社が借りていた時代に、Dが(Aさんの許可を取って)建てたものであることが分かりました。
この車庫の撤去には約120万円の費用がかかるとの見積もりでした。
そこで、こちらから、「保証金返還の義務があることは争わないが、せめて車庫の撤去費用120万円は差し引かせて欲しい」と提案したのですが、C社側は「それはあくまでB社が建てたものであるから、C社は原状回復義務を負わない」と反論してきました。
しかしながら、①車庫を設置したDは、B社の元役員であり、今のC社の代表でもあること、②賃借人がB社からC社に切り替わる際に、保証金もB社からC社に引き継がれていること、といったこれまでの経緯からして、この車庫の原状回復はC社ですべきことを粘り強く主張したところ、最終的にはC社も了解し、合意を取り付けることができました。

本事例の結末
AさんからC社に対し、保証金500万円から車庫の撤去費用120万を引いた380万円を返還することで解決となりました。

本事例に学ぶこと
本件では、A・C間の賃貸借契約書に記載された原状回復に関する特約を見ると、むしろ、「C社は現状有姿のまま物件を借り受けるものとし、AはC社との賃貸借契約が継続している間はB社の施した造作等の原状回復を行わない」=「C社はB社の時代から存在する造作等の原状回復義務を負わない」と解釈できるような表現になっており、実はAさんに不利な状況でした。
しかし、B社とC社が全く無関係の会社ではなかったこと(Dの存在)や、当事者双方ができれば穏便に解決したいとの希望を有していたことから、早期かつAさんに有利な方向で決着となりました。

弁護士 田中 智美