近年もよくご相談をお受けする分野の一つに「建築紛争」があります。
例えば、施主側から、「新築したばかりなのに、雨漏りや壁にひび割れが発生してしまったので補修や建て直しをして欲しい」と求められる、施主側が明らかに不当な修繕要求をしてくる、施主側がきちんと請負代金を支払ってこない等々です。
では万が一そのような事態となった場合、どのような対応をしていくべきでしょうか。以下解説していきます。

建築紛争とは

建物の建築工事をめぐるトラブル全般のことを指します。
典型的なケースとしては、施主側から「新築なのに雨漏りや壁にひび割れがある」、「窓やドアの建て付けが悪い」、「間取りが注文したものと違う」などと言われ、修補や損害賠償を求められる事案が挙げられます。
また、きちんと工事を行い完成させたにもかかわらず、施主側から請負代金が払われない、施主側から明らかに不当な修繕要求を受けている等々があります。

よくある建築紛争の例

上記のとおり、建築紛争とは、建築工事をめぐるトラブル全般を指しますが、ここでは、特にご相談の多い、3つの例をご紹介したいと思います。

①建物建築中の追加・変更工事に関するトラブル

建築工事は、必ずしも予定どおりに進むとは限りません。何かの事情で予定が変更となり、追加工事や変更工事が必要になることもあります。
事情として多いのは、着工後に施主側から要望の追加や変更が出た場合や、建築中に地震や大雨などで建築物が破損してしまった場合などです。

そんなとき、改めて打ち合わせをしっかりと行い、契約書や設計図面も改めることができれば良いのですが、完成を遅らせるわけにもいかず、急ぎ口頭の説明や口約束のみで済ませたりして、追加工事等を行ってしまうことも実際のところは多いように思います。

そうすると、施主側から後で「こんな工事は頼んでいない」とか、「追加工事費用については、元々の契約の範囲内なので支払う必要がない」等の主張が出てきてトラブルになることがあります。

②工事の中断に関するトラブル

建物が完成する前に、建築工事が中断してしまうこともあります。

例えば、上記建築中のトラブルのように、着工後の施主(注文者)と施工業者との間におけるトラブルで、両者の信頼関係が損なわれると、注文者がそれ以上の工事をやめさせ、契約解除に踏み切ってくることがあります。そのような場合、工事が途中であればそれも中断してしまうこともあると思います。

請負契約においては、報酬は仕事の目的物の引き渡しと同時に支払われるのが原則です。
つまり、原則として建物が完成するまで注文者は報酬を支払う必要はありません。

しかし、施工業者は多額の経費を支出して着工していますので、途中で工事を終了した場合でも、公平性の観点から、それまでに施工業者の要した費用については、一定程度注文者に請求できるはずです。

もっともこの場合、注文者が具体的にいくら負担するべきなのかについて、やはりトラブルになるケースが多いように思います。
そもそも、金額以前に、工事が中断した責任が注文者と施工業者のどちらにあるのかも争いになる場合があります。

③契約不適合(建物の瑕疵)

「契約不適合」とは、売買契約や請負契約における目的物の種類、品質、または数量が契約内容に適合していないことを指します。
例えば、雨漏り、水漏れ、ひび割れ、耐久性不足、耐火・防火の不備などです。

なお、改正される前の従前の民法では、建物の「瑕疵(かし)」と表現されており、建物に瑕疵があった場合の売主・請負人が負う責任のことを「瑕疵担保責任」と呼んでいました。
2020年4月から施行されている改正民法では、瑕疵担保責任が「契約不適合責任」というものに改められ、売主・請負人の責任の範囲が広げられました。

具体的に、どのような意味で責任の範囲が広げられたかというと、引き渡された建物に不具合や欠陥がある場合だけでなく、種類、品質または数量が契約に適合しない場合も売主・請負人が責任を負うことになりました。
例えば、「間取りが注文したものと違う」、「工事が建築基準法等の法令に違反している」などです。

建築紛争における法的対応

では、実際に建築紛争が生じてしまった場合、どのような法的対応をとれば良いのでしょうか。施工業者側の対応を考える上で、まずはそもそも施主側はどのような請求をすることができるのか、知っておく必要があります。
以下、ご紹介します。

施主側から主張されることが想定されるもの

①修補請求

まず、工事内容に不備がある場合、注文者は施工業者に対して、契約内容に従って履行を追完するよう請求することができます(民法第559条、第562条1項本文)。
具体的には、契約内容に適合していない部分を指摘して、その部分を修補するよう求めるということになります。

ただし、施工業者は、注文者に不相当な負担がかからない場合には、注文者が求める方法とは異なる方法で修補することも可能とされています(同項但書)。

なお、当然のことかもしれませんが、契約不適合の責任が注文者側にあるときは、注文者は修補請求をすることはできません(同条2項)。

②代金の減額請求

つぎに、注文者が適切な期間を定めて修補の請求をしたにもかかわらず、その期間内に修補が行われなかった場合には、注文者は契約不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(民法第559条、第563条1項)。

また、そもそも修補が不可能な場合や、施工業者が修補を明確に拒絶した場合などには、注文者は適切な期間を定めることなく、直ちに代金の減額を請求することができます(同条2項)。

ただし、これも上記①同様、契約不適合の責任が注文者側にあるときは、注文者は代金の減額を請求することはできません(同条3項)。

③損害賠償請求

契約不適合によって注文者に損害が発生したときは、債務不履行を理由として損害賠償請求をすることができます(民法第415条1項本文)。

注文者が修補請求や代金減額請求をして、施工業者がそれらに応じた場合でも、賄いきれない損害が発生している場合にはさらに損害賠償請求することも可能です(民法第559条、第564条、第415条1項)。

ただし、契約不適合が施工業者の責めに帰することができない事由で生じた場合には、損害賠償請求は認められていません(民法第415条1項但書き)。

④契約解除

注文者は、契約不適合がある場合に、適切な期間を定めて修補などによる履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完が行われない場合には、契約を解除することができます(民法第541条1項本文)。

履行の追完が不可能な場合や、施工業者が履行追完を拒絶した場合などには、注文者は催告せず直ちに契約を解除することも可能です(民法第542条1項)。

ただし、契約不適合の程度が社会通念に照らして軽微といえる場合は、契約の解除は認められていません(民法第541条1項但し書き)。

施主側からの請求に対する対応

以上が、施主側からの主張で想定されるものです。
このような主張が施主側からなされた場合、当該事案においても主張できるものなのか、きちんと見極める必要があると思います。
後にも記載しますが、やはり施主側から上記のような主張がなされた場合には、まずは弁護士に相談すべきです。

つぎに、対抗手段として、施工業者側で主張できるものについてご紹介します。

施工業者側において主張できるもの

①追加・変更工事の代金請求

追加工事や変更工事が当事者の合意に基づいて適切に行われたものと認められた場合、施工業者は注文者に対してその工事の代金を請求することができます。

なお、追加工事や変更工事が当事者の合意に基づいてされたといえるためには、必ずしも書面による必要はなく、口頭やメールのやりとりなどでも合意は可能ですが、後々のトラブルを防止するという観点からは、書面などで明確にしておいた方が良いと思います。

②出来高払いによる代金の請求

工事が途中で終了した場合でも、施工業者が注文者に対して、その時点での出来高に応じて報酬を請求できる場合があります。
具体的には、工事がある程度進み、それによってすでに注文者に利益が発生しており、出来高部分に応じた代金の算定が可能な場合に、この請求が可能となります。

なお、実際は、契約書において出来高払いを定めておくことが多いです。今一度契約書に不備がないかご確認ください。

建築紛争を解決する手段

では、上記のような法的対応を実現していくため、建築紛争に巻き込まれてしまった場合には、どのような手段で紛争を解決していけば良いでしょうか。

①当事者間での話し合い

まずは当事者間で話し合うという方法です。
施主(注文者)と協議を行い、両者の納得できる解決方法が見つかれば最も早期解決につながるため、まずはこの方法をトライすべきです。

もっとも、当事者間同士では、感情的になってしまって話にならない等の事情が多々あります。
そのような場合には、是非弁護士を通じて話し合い(交渉)を進めることを検討してみてください。
直接自ら施主(注文者)と話し合う労力から解放されるほか、施主(注文者)との話し合いにおける精神的な苦痛も避けることができます。

②保険(住宅瑕疵担保責任保険)による解決

「住宅瑕疵担保責任保険」に加入している場合は、保険を適用することでトラブルを解決できる可能性があります。

住宅瑕疵担保責任保険とは、新築の住宅に瑕疵があり、補修等が行われた場合に保険金が支払われるもので、施工業者が行う補修工事等の費用が保険金として支払われることになります。

③裁判外紛争処理機関(ADR)の利用

当事者間での協議によって解決ができない場合には、裁判外紛争処理機関(ADR)を利用することで解決を図ることもできます。
裁判外紛争処理機関(ADR)とは、民事上のトラブルについて、裁判によらず、公正・中立の立場で当事者の話し合いを仲介することによって解決を図る機関のことです。

施主側から申立てを行ってくることが多いように思いますが、制度の概要を知っておくという意味で、建築紛争で利用できる裁判外紛争処理機関(ADR)の主な2つをご紹介します。

ⅰ建設工事紛争審査会

建設業法に基づいて、国土交通省及び各都道府県に設置された機関です。
建設工事の請負契約に関するトラブルについて、あっせん・調停・仲裁を求めることができます。
建物の瑕疵や請負代金をめぐるトラブルなどが主な対象となります。

ⅱ住宅紛争審査会

「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(住宅品確法)に基づき、国土交通大臣から指定住宅紛争処理機関として指定を受け、全国の弁護士会に設置されている機関です。
対象となるトラブルの種類が建設工事紛争審査会よりも広く、売買契約や建物の設計監理契約に関するトラブルなども対象となります。

④民事調停の利用

裁判所において、話し合いを行う方法に民事調停があります。
裁判外紛争処理機関(ADR)の手続と同様、当事者に対する法的な拘束力はありませんが、訴訟ほど厳格な手続きではないので、柔軟な解決が期待できます。そのため、早期にトラブルを解決したい場合や費用を抑えたい場合に有効です。

⑤建築訴訟(裁判)の提起

建築紛争を解決する最後の手段は、訴訟(裁判)を提起することです。
建築訴訟では、専門性の高い技術的なことについて、細かな点まで主張及び証拠による立証を行っていかなければなりません。

建築紛争における弁護士の活動

弁護士の活動の流れ

建築紛争について、弁護士が介入した場合は、以下の活動を行っていくことになります。

1 依頼者からの聴き取り

まずは、依頼者から当該建築紛争の事案について、詳細な聴き取りを行います。
あわせて、当該建築物に関する客観的資料(契約書や建築確認書など)についても確認をさせていただきます。

2 法的主張を構成し、相手方と交渉

依頼者から聴き取り及び依頼者のご希望も踏まえ、法的に主張可能な方法を選択ないし構成していきます。
その上で、代理人弁護士として、通常は相手方に対しその主張を書面で通知します。
その後は、相手方のリアクション(反論等)も踏まえながら、相手方と交渉し、解決を図っていくことになります。

3 調停や訴訟(裁判)

相手方と交渉した結果、解決に至ればもちろん良いのですが、場合によっては交渉が決裂してしまう場合もあります。
そのような場合には、弁護士が代理人となって、調停や訴訟(裁判)を起こしていくことになります。

弁護士介入のメリット

戦略的な交渉が可能となる

建築紛争を適切に解決するためには、まずは依頼者からの聴き取りと契約書、設計図書などを読み解いて権利・義務関係を正確に把握し、法的な主張を構成した上で交渉していかなければなりません。

このような交渉を有利に進めていくためには、訴訟に発展した場合の最終的な見通しも立てた上で、駆け引きを行っていくことも重要です。
紛争が長期化することを回避するためには、譲歩できる部分は譲歩して、納得できる着地点も踏まえて、戦略を立てながら進めていくこともポイントになってきます。
もっとも、そのような交渉は、中々一般の方では難しいと思います。
一方、弁護士に依頼すれば、当然弁護士はそのような駆け引きや戦略を立てた上できちんと交渉していきますので、戦略的に交渉を進めていくことが可能になります。

調停や訴訟の手続もすべて一任できる

調停も訴訟も、制度上は、弁護士に依頼することなく、自分で進めていくことも可能です。
しかし、実際のところ、訴訟では、訴状の作成や証拠の提出など厳格なルールに従って行っていく必要がありますし、調停も訴訟ほどには厳格な手続ではないものの、やはり、ある程度の専門的知識は要求され、ご自身一人で対応していくことは相当に困難です。
何より、そのような調停、裁判に逐一対応しなければならず、また時間を割かれるという点でも負担が大きいです。

一方、弁護士に依頼すれば、専門的な作業や複雑な作業はすべて一任できますので、ご自身で時間や労力の負担をすることなく、安心して調停や訴訟を進めることができます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅
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