紛争の内容
共同住宅の一括借上げをしている不動産会社が、賃貸人オーナーに、物件の修繕やその他管理について協議打合せを行うに際し、これまで、連絡が取れていたオーナーと電話連絡が取れず、一人暮らしのオーナー自宅を何度も訪問するも、面談がかないませんでした。
不動産会社としては、本オーナーがお亡くなりになったのではないか、また、高齢でもありましたので、高齢者介護施設に入所されたのではないかと考えました。
そこで、最寄りの警察署に、同オーナーの安否を確認しましたところ、存命であるが、その所在は教えられないとの回答であったとして、今後の対応について相談されました。
そこで、本オーナーの所在が一向に判明しない場合には、本共同住宅の管理保全し、本オーナーの利益を維持するために、不在者財産管理人選任の手続きが必要になるかもしれないと考えました。
不在者財産管理人とは、不在者、つまり、「従来の住居又は居所を去って、容易に帰来する見込みのない者」に管理すべき財産がある場合に、家庭裁判所が、その管理人を選任し、不在者の財産の管理・保存に当たらせる制度です。
不在者に該当するのではないかと目される本オーナー所有の共同住宅を一括借上げている不動産業者は利害関係人として、申立権がありますので、この制度を利用できる可能性があると考えたのです。

交渉・調停・訴訟などの経過
そこで、本オーナーが、不在者財産管理人選任申立の対象である、「従来の住居又は居所を去って、容易に帰来する見込みのない者」に該当するかどうかを確かめることになりました。
まず、警察署からは、存命であるとの回答を得ていましたが、まず、住民票を調査しました。
介護施設に転居した場合には、その介護施設に住民票を移動している可能性があるからです。
住民票を確認しましたところ、ご自宅からの転居はありませんでした。
次いで、親族関係を調査しました。
ご家族の方が、本オーナーの所在場所を知っている可能性が高いと考えたからです。
まず、本オーナーの戸籍関係を調べましたところ、配偶者はおらず、3人のお子さんがいることが判明しました。
いずれも未婚であり、父である本オーナーと同一の戸籍でした。
そこで、お子さんたちの住民票上の住所を調べるために、戸籍の附票を取り寄せ、確認しました。
3人のお子さんたちの住民票所在地が判明しました。
このお子さんたちに宛てて、本オーナーの現在のお住まいの場所、連絡先の電話番号、認知力の低下の有無、その他ご病気での入院治療中かを問い合わせるお手紙を差し上げました。
このうち、2名の方から返信があり、特に長男の方から、丁寧な回答をいただきました。
長男の方が、改めて、本不動産業者と本オーナーとの間を取り次いでくれることになりました。

本事例の結末
調査の結果、本オーナーは、不在者財産管理人選任の対象となる「不在者」に該当しないことが判明しました。
また、他県に住んでいる長男の方が、オーナーとの連絡の取次をしてくれることになり、関係が回復しました。

本事例に学ぶこと
我々弁護士は、依頼を受けた法律事務の処理の必要がないと、住民票や戸籍関係資料を職務上請求することができません。
本オーナーは高齢でもあったことから、所在が判明しても、入院治療中であったり、認知力の低下があって、今後の賃貸借関係の更新、管理業務のためには、成年後見の申立てが必要になるかもしれないとも考えました。
お子様たちに対する照会の結果、認知力の低下は見られないこと、病院入院中でないことなどが判明し、それ以上の問題が発生せずに、依頼者ともどもほっとしました。
本件のような共同住宅の一括借上げの不動産業者(サブリース会社)が、オーナーと音信が取れなくなって、速やかに相談、ご依頼をいただきましたので、本管理物件の入居者に対する対応にも支障が出ることを防げました。やはり、善は急げです。

弁護士 榎本 誉