紛争の内容
台風被災共同住宅の入居者から、復旧作業に伴う支障があったとして、賃貸人が課す義務違反に基づく損害賠償請求を受けた事案

交渉・調停・訴訟などの経過
深刻な災害被害を受けた共同住宅の賃借人からの、物件管理業者、賃貸人に対する損害賠償請求の民事調停が提起されました。特例措置により、申立て費用は免除されています。
3室の入居者の方が連名での申立てであり、入居者の配偶者の方が、裁判所の許可を受けて、代理人に就任し、調停を担当しました。
3階建住居の3階にお住まいの方で、1階天井までの水没した物件でした。
改修工事のために、近隣の他の物件への転居をご案内しましたが、通勤の事情などで転居は叶わない事情があったようです。
水没した1階住居部分は、補修部材がそろうまで、養生が不十分でした。共用設備の復旧もスムーズには進みませんでした。
隣接の駐車場の復旧のために、流れ込んだ土砂を駐車区画から運び出し、往来の妨げにならない場所に異動しましたが、冬の乾燥した季節風により、いつも以上に埃が立ちました。
これらを、貸室居住の満足を維持していないとして、貸す義務違反の賠償請求となったものです。
自然災害によって、居室や共用部分の使用に支障をきたした場合、貸主は修繕義務を負います。
この発生原因が、自然災害であっても、貸主の修繕義務は免除されないのが原則であるというのが、裁判例です。
使用収益を満足させないという復旧の遅れは、申立人ら賃借人の居室の使用については、電源などのライフラインの復旧や居室への直接的被害はないため、数日間のご不便で済みました。
この点については、賃貸人は、賃料の一部減額、相当期間の共益費の免除で対応しましたが、それでは不足であるとして、本申立に至ったようです。
これについては、賃貸人、管理会社としては、下記の方針で対応しました。
一般的には、使用収益に障害を与える破損の程度が、賃借人の使用収益に「通常の」支障を与える程度であれば、賃貸人の修繕義務を認めるべきとされておりますところ、どの程度の破損があれば、「必要な修繕」といえるのかの判断は、家賃(賃料)水準との関係をも考慮して、当該事案において賃貸人に修繕義務を負わせることが妥当か否かという判断に帰着するものと考えられました。
そして、先般の賃貸人としての対応は、決して不足するものではなく、復旧工事に邁進し、復旧実現するので、理解・協力をお願いしました。
 それ以外に、浸水をした立地を問題視され、賃料減額の要望もありましたが、賃貸人としては応じることは叶わないと回答しました。
 複数回の調停を経ましたが、不成立となりました。
 賃借人である申立人らは、不成立から半年を経過しますが、訴訟を提起することもありませんでした。

本事例に学ぶこと
賃貸人の修繕義務は、貸室の損傷発生の原因が自然災害であっても、免れません。
損傷の程度次第では、賃貸借が終了することもあり得ますし、賃貸家屋にかけられた損害保険で復旧費用は賄えます。
しかし、被災規模によっては、復旧に時間を要する場合があり、賃借人の不便を解消できず、本件のような裁判手続きに移行することも想定しておくことが必要です。

弁護士 榎本 誉